お題 | ナノ
刹那に等しい口づけを(柳蓮二)
「おい」
図書室のカウンターに見知った姿を見つけて、声をかけた。 いつもなら、すぐに顔を上げて、俺だとわかると破顔する彼女の顔は一向に上がる気配を見せない。
「寝てるのか?」
パイプ椅子の背もたれに身体を預けて軽く俯いている顔を覗き込めば、寝ていることが見てとれた。
「風邪をひくぞ」
と言いながらも、起こすことはせずに静かに彼女を見つめた。 昼休みが始まってそんなに時間が経っていない所為だろうか、人の気配はなく、図書室は俺と彼女の2人だけだった。
「すまない」
カウンターを乗り出して、俯く彼女の唇にそっと口付けた。 刹那に等しい口づけを送り、俺は何事もなかったように装い、図書室をあとにした。 図書室に入るアイツを背後に感じながら、ヒトのものである彼女を想った。
(c)こなゆき
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