お題 | ナノ

その手を放さないで(仁王雅治/柳生妹)



「お、柳生の妹さんじゃ」


癖のある声音と方言に振り向けば、銀髪を揺らす兄のダブルスパートナーがそこにいた。


「仁王先輩」

「今、帰りなんか?」

「はい。塾が長引いてしまいましたので。仁王先輩は部活ですか?」

「引退しても、持ち上がりじゃしの」


面倒だという声音の割に仁王先輩の顔はイキイキしている。
そういえば、テニスの話をする兄もこんな表情だったと思い出した。


「危ないぜよ」


グイッと腕を引っ張られて、気付いた時には仁王先輩の腕の中にいた。
私達の横を車が走り去る。


「有難うございます」

「危なかっしいのぅ、お前さんは」


ニィと口角を上げた仁王先輩は手を繋いで、歩き出す。


「あのっ仁王先輩っ?」

「なんじゃ?」

「手、が」


庇うように道路側を仁王先輩が歩いてるのは間違いなんかじゃない。


「お前さん、危なっかしいからの」


さっきと似た台詞を言って仁王先輩は笑った。
そのまま、ポツリポツリと会話をし、気付いたら、家の前だった。


「到着じゃ」

「ありがとうございます」

「これくらい構わん。相方の大事な妹じゃしな」


繋がれていた手が離れて、髪をかき混ぜるようにわしゃわしゃと撫でられる。


「また明日な」


そう言った仁王先輩が私の頭から手を離す。


「っ…仁王先輩っ」

「ん?」

「お気を付けて」

「了解ナリ」


緩く、軽く、後ろを向かずに振られる手。
遠ざかる背中。


「その手を放さないで欲しいだなんて、言えるわけないよ」


優しくしてくれるのは私が柳生比呂士の妹だから。
ずるいよ、仁王先輩。




(c)こなゆき