お題 | ナノ

どうして不安にさせるの(跡部景吾)



「景吾、私の名前わかる?」

「あーん?当たり前じゃねぇか」

「じゃぁどうして呼んでくれないの?」


振り返れば、涙を溜めた目が俺を見ていた。


「いつも、“おい”とか“お前”で、私の名前どころか苗字を呼んでくれたことだってないじゃない」


溜まっていた涙はとうとう頬を伝った。
それを拭いもせずにただ俺を見つめる目に何一つ言葉を返せない。


「やっぱり、景吾は何も言わないんだね。どうして不安にさせるの?景吾と付き合ってから、不安しか感じないよ」


視線が逸れ、段々と彼女の視線が俯き、そこで言葉が区切られた。


「終わりにしよう、景吾。もういつ捨てられるか不安になるのは嫌なの」


そう言った彼女は俺の言葉も待たずに去って行った。
俺は結局彼女の名前を呼ぶことも出来ず、ただそこに立ち尽くした。




(c)こなゆき