お題 | ナノ

だったらなんだって言うのよ(宍戸亮)



「先輩」

「何かしら?長太郎」

「ちょっといいですか?」

「えぇ」


目の前で行われているのはジュースを賭けたお遊びのゲーム。
それでもデータになるだろうと付けていたスコアを一瞥してから、長太郎を見上げる。


「ここじゃない方がいい?」

「スコアを付けながらでも構いません」

「じゃぁ、お構いなく」


そう言って、もう一度スコアに目を落とし、審判をしている岳人の声に耳を澄ました。


「あの、くだらないんですけど…」

「いいわ、気にしないで」

「はい。先輩達のこと、なんて呼んでますか?」


思わぬ質問にパキリとシャーペンの芯が折れた。


「景吾、侑士、岳人、宍戸、慈郎、萩之介、だけれど?」

「そうですよね」


少しドキドキしていた。
きっと長太郎は気付いていて、私に問いかけているだろうからだ。


「それがどうしたの?」

「なんで、呼ばないんですか?」


やっぱり。


「呼びたくないから。だったらなんだって言うの?」


可愛くない言い方だ。


「そうなのかなって思ってたんですけど…」

「そう」


最後の数字を書き込んで、シャーペンの先をトンッとボードに当て、芯をしまう。
コートの中では買った慈郎と審判をしていた岳人が負けた宍戸にジュースを注文していた。
それを侑士は微笑ましそうに遠巻きで見ている。


「長太郎の予想は当たりよ」


スコアを手に、長太郎に背を向けて歩き出す。
意識するまで呼べていた名前は今は恥ずかしくて呼べないまま。



(c)こなゆき