お題 | ナノ
無関心を貫くわ(山吹)
あの日以降、プレイヤー兼マネージャーになった壇はコートへの道を走っていた。 理由は簡単だ。 あと5分で練習が始まってしまうからである。 幸い部長の南は滅多に遅刻をしない壇に対して目くじらを立てたりする人物ではないのだが、壇の性格上、走らずには居られなかった。 その手には南に頼まれ纏めていたスコアなどの書類が抱えられていた。
「うわぁっ」
足元には何もなかったが、焦りから壇は足をもつらせて、転けてしまう。 バサバサとその場に書類が舞った。
「あーやってしまったです」
落ち込みながらも、わたわたと壇は書類をかき集めはじめる。
「はい」
最後の一枚を誰かが差し出した。 壇が見上げれば、そこには千石と似た色の髪を靡かせる山吹の女生徒がいた。 先輩だろう女生徒に壇は頭を下げる。
「ありがとうございましたです!」
「気にしないでいいよ。それより、それ」
彼女の指差した書類を見れば、壇が写した南と東方のスコアが載っていた。
「ここ、間違ってる」
「へ?」
「前後の結果に矛盾が出来てる」
言われて見てみれば、その通りだった。 礼を言おうと壇が書類から顔を上げると女生徒はいなくなっていた。
「指摘、ありがとうございましたです」
いなくなった女生徒に礼を言い、壇がその場を去る。
「壇君、いい子でしょ?ところでさ、いい加減、テニス部に戻ってこない?」
「いやよ」
「ホンット素直じゃないんだから。何時までそうしてる気?」
「卒業するまで、ずっと」
壇の背中を見ながら、千石と女生徒の間で交わされた会話を聞く者は誰一人としていなかった。
「帰る」
「またね」
次を期待しての千石の別れの挨拶に女生徒は手だけを振った。
「無関心を貫くわ…、それが彼らの為になるのならね」
女生徒のその呟きは風に掻き消えた。
(c)こなゆき
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