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後も先も考えない[仁王雅治]



いきなり隣のクラスから来た仁王君が授業中にも関わらず扉を開けた。
勿論、先生は仁王君を注意してたけど、仁王君はそんなのどこ吹く風で、ズカズカと自分の教室じゃないのに入り込んできた。
隣の席の幸村君が面白そうに口元を歪めたのは気のせいなんかじゃないと思う、絶対に。
そんな仁王君が気付いたら目の前にいて、席に座った私は仁王君を見上げた。
途端に見たことがない程に仁王君が穏やかに笑って、腕を引っ張られて立ち上がらされる。
教室がざわめく。


「好きじゃから、一緒に逃げて」


その言葉と共に仁王君によって拉致された。
手はしっかりと世間一般で言う恋人繋ぎというやつで繋がれ、足の速い仁王君は時折私を振り返りながら、走り続けて、屋上を目指した。
屋上の扉を開いて、乱れた息を必死で整えて、仁王君を見上げる。
私ほどじゃないけれど、上がった息を整えた仁王君は微笑んだ。


「付き合うてください」


あれよあれよと訳の分からないまま、仁王君曰わく何かから逃亡の末、手を繋いだままの告白。
自由奔放でむちゃくちゃだけれど、嫌いにはなれなかった。
だって、ずっと好きだったのだから。


「仁王君、好きです」

「ん」


また穏やかに仁王君が笑った。
でもね、仁王君。
この後は一緒に先生に怒られようね。


後も先も考えない
(誰よりも今を愛している)
(c)ひよこ屋