お題 | ナノ

うつ向いたら幼い[忍足侑士]



「ゲームセット」


審判が試合の終わりを告げた。


「ゲーム ウォン バイ 青学」


彼らの負けと共に。
次の試合の準備に入り、場の空気は宍戸によって、変わる。


「侑士…」


心配しないわけがない。
だけれど、彼は負けを自分の所為だと責める相方を慰めていた。


「樺地くん、向日くんのことお願いね?」


近場にいた樺地くんに向日くんのことを頼み、まだ私に気付いていない侑士の背後に回った。
肩を叩く前に腕を掴み、引っ張る。
軽くではなく、侑士がバランスを崩すくらい強く。


「え?ちょっ」


戸惑いの声を上げる侑士は無視して、ぐいぐいと引っ張ってギャラリーを抜け出した。
人気がない場所についてはじめて、侑士の腕を放し、侑士を見上げる。


「なんなん?」


無表情に近い表情。
私はそれを崩したかった。


「強がらないでよ」

「は?なんなんやな、自分」

「私の前では侑士を見せてよ!」


半ば叫ぶように言えば、侑士がハッと息をのんだ。


「すまん」


侑士の視線がさまよって、俯く。
少し猫背な背中が更に丸まった。


「侑士、お疲れ様」


侑士より幾分も背の低い私には俯いた侑士の顔は丸見えで、それでも、見ないように背伸びして侑士を抱き締めた。
労いの言葉を添えて。


うつ向いたら幼い
(強がりに隠れたもう一人)
(c)ひよこ屋