お題 | ナノ

セミを黙らせる方法(鳳長太郎)



「蝉、うるさい」


私のその忌々しげな表情と声に長太郎は思わず頬が緩んだようだ。
真っ白なように見えて悪趣味な男だから、確実に頬が緩んでるに違いない。


「蝉を黙らせてよ」

「むちゃくちゃだな」


長太郎は呆れた声音で返すけれど、私の表情が和らぐことはない。


「これで聞こえないだろ?」


ふと、影が私を覆う。
耳には長太郎の手があてられ、隙間からくぐもった蝉の声が聞こえた。
フッと間近で笑んだ長太郎に、ただ私は頬を染め、見上げるしか出来なかった。



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