お題 | ナノ

惜しむらくは、晩夏(忍足侑士)



「明日の朝に向こう戻るわ」

「そうなんや」

「泣かへんの?」


お盆に忍足家がじいちゃんばあちゃんの家に集まるんは毎年のことやった。
私も侑士も謙也もみぃんな昔っからそうやって夏休みは過ごしてきたんや。
ていうても、もともと関西圏に住んどる私と謙也は夏休み最終日まで居るけど、侑士は中学に上がると同時におっちゃんの勤めとった大学病院の都合で東京に引っ越してもうたから、早めに向こうに戻ってまう。


「侑士…」

「嘘や。泣かんとって?自分に泣かれたらどないしたらえぇかわからん」


低い安心する声も当分の間聞けへん。


「また来年来るさかいに」

「うん」


「いつか、連れてけたらえぇんにな」


朝がこぉへんかったらえぇ。
侑士が東京に戻ってまう朝なんて、ずっとこぉへんかったらえぇんや。





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