お題 | ナノ

昼下がり、雲の静寂(滝萩之介)



何かを殴るような痛々しい音が聞こえた。
その音に誘われるようにテニスコートに一番近い校舎の裏に向かう。
そこには血の滲んだ拳を握りしめた滝くんがいた。


「滝くん」


慌てたように振り返った滝くんは、笑顔を作り損ねていた。
少し傍による。
警戒するように私を見るそんな仕草が猫のようだった。


「たくさん泣いて、明日笑えばいいよ」


痛いときは痛いと泣けばいい。
辛いなら辛いと泣けばいい。
悔しがればいい。
まだ、私たちはただの中学生(子供)なんだから。
悔しそうに顔を歪めた滝くんがその場に座り込む。
たまたま持っていたタオルを滝くんの頭から被せて、そっと頭を撫でた。
聞こえてきた嗚咽を聞こえないフリをして、空を見上げれば、静かに雲が流れていた。



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