お題 | ナノ

結局今日も、(芥川慈郎)



「うにゃーっこっからじゃやっぱり見えないよー…」


私は教室の窓からファンが集まったテニスコートを見下ろしていた。

ポンポンっと肩を叩かれて、振り向く。


「ひっ!!」


そこに居たのは隣のクラスの芥川君。

で、私の好きな人。


「ねぇ昨日もここで会ったよね?」

「うっうん…」

「テニスコート見てんの?」


フルフルと首を振る。

本人には絶対に知られたくないから。

だって、ファンなんて迷惑以外の何者でもないでしょう?


「A〜っ嘘だC!」


試合の時みたいな覚醒しきった声。

こんな間近で初めて聞いた。


「俺知ってるよ?君がいつもここからコート見てんの。昨日は逃げられたから、今日は逃がさない」


芥川君の眼光がキラリと光った気がした。

それも一瞬。

なぜなら、私が逃げ出したから。

大人しそうだろうが元・陸上部舐めんなよー!


「あ…」


下駄箱まで来て、私は気付く。

今日もまた、


(逃げてしまった…)

(逃げられた)




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