お題 | ナノ

寂しさが吹きぬける(幸村精市)



誰もいないテニスコート。
私たちの夏は終わった。
準優勝という、目標にしていた全国三連覇には一歩届かない結果で。


「何をしているの?」


聞き慣れた我等が部長の声に振り向く。


「幸村」


呟いた名前は掠れていた。
今、幸村と話すのは得策ではない。
きっと私は幸村を責めてしまうから。


「責めても構わない。三連覇の夢を、アイツらとの約束を、違えたのは俺だ」

「ゆ、きむら…」


何も言えない。
確かにそうなのだ。
でも、負けたのは幸村だけじゃない。
みんな、負けたかったわけじゃない。


「幸村」

「なに?」

「残りの夏は何をしようか?」


決して、幸村の顔を見ないように呟いた。
夢の終わりを告げるかのように寂しさが吹き抜けた。


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