守護と残忍の二面性

突然ではありますが、現在、綱元さんに先導されるまま、輝宗様の室を目指しております。
どうでもいいんですが、室って言いにくい。
どうしても、部屋って言いたくなります。
でも、室って皆が言うので、室って言いますけど、部屋って言葉がなかった時がショックなので。
あ、綱元さんが私の前に立つのは嫌だとか立場的に駄目だとか私の室から出る前に色々渋ってましたが、まるっとスルーの方向で、案内してくれないと迷子になっちゃいますと先導させました。
渋る綱元さんが悪い。
久しぶりに本丸の方に来た所為か、視線がとっても痛いです。
視線が実体化する凶器だったら、私は確実に死んでます。
それから、雰囲気だけですが、綱元さんの機嫌が急降下中。
う〜ん、と、綱元さんについて来てもらったのは判断ミスですか。
いや、喜多さんを連れてくる訳にもいかなかったし、綱元さんは一応私の傅役なんで、綱元さんかなぁと頼んだのだけど。
それに、綱元さん、一時期とはいえ、輝宗様の小姓時代があったらしいしね。
喜多さんといえば、梵天丸の乳母の筈なんで私から外れるのかと思っていたんですが、どうやらそうでもないみたいなんですよね。
女中さん達の噂によると、義姫様の可愛がり様が尋常じゃないらしく、義姫様付きの女中さん達が見守る中、ご自身で世話をなさっているそうです。
第一子が私みたいなのだったので、その反動でしょうね。
ちなみに、この話を知ってるのか、喜多さんと綱元さんの義姉弟が不機嫌極まりないんですよ。
私は知らないことになってるみたいなんで、何も言いませんが。
出来ることなら、梵天丸が疱瘡なんぞに罹らないということになれば万々歳なわけで。


「栄丸様」

「はい?」

「ここを曲がればすぐですよ」


肩越しにこちらを振り返る綱元さんの表情が心配そうで、少し肩の力が抜ける。
緊張してにないつもりだったんですけど、してたみたいです。
年始の挨拶に会ったのが最後なんで、かれこれ八ヶ月程…結構会ってないな。
梵天丸が生まれるまでバタバタしてたみたいだし、仕方ないと思う。
というか、これ、私だからいいけれど、梵天丸のとこにはちゃんと会いに行ってもらわなきゃだなぁ。
わざわざ言わずとも大丈夫であって欲しいな。
まぁ“私”だから、会いに来なかったんだろうし。

「おっと」


危なかった。
輝宗様の室に着いたのか、綱元さんが急に止まったので、思いがけず、綱元さんの足にぶつかってしまった。
そうなるのに気付いてたのか、足に抱き付く形で背を片腕で支えて頂いてしまいました。
ホント申し訳ない…って、綱元さんの私を見る目が少しばかりほんわか和んじゃってる気がするんですけど。


「大丈夫ですか?栄丸様」

「はい、ありがとうございます」

「いえ、お怪我がなくて良うございました」


きちんと立たせてもらった上に、着物も直してもらっちゃったよ。
いつも思うんだけど、綱元さんすっごい出来る人。
だからこそ、私なんかが独占しちゃいけないんだと思うんだけどなぁ。
それ言ったら、喜多さんと綱元さんのダブルで懇々と説教されたので、もう口には出すもんか。


「輝宗様、栄丸様をお連れ致しました」


綱元さんが片膝をついて頭を垂れる横に座って平伏すように頭を下げた。


「栄丸、入って来い」


襖の向こうから、輝宗様の声が聞こえて、中に居た小姓さんが襖を開けてくれた。
細心の注意を払って立ち上がって、輝宗様の前で正座して頭を下げた。
さぁ正念場だよ、栄丸。
声には出さずに、そう言って、顔を上げた。
その先に居た輝宗様は、私の知る伊達政宗にそっくりで親子なんだと思う。
少しきつめの美人で、笑えば悪役顔。
でも、伊達政宗の方が線は細いと思う。
その辺は年齢の問題かもしれんが。


「おひさしぶりです、ちちうえさま。ごそくさいであられましたようであんしんいたしました。このたびは、ぼんてんまるさまのたんじょう、おめでとうございます」


実はまだ名前が付いたとさえ聞いてはいない。
でも、生まれた子が梵天丸と名付けられるのだと、私は確信している。
しっかりと見据えるのは、気味の悪さからか、素直に驚きからなのか、見開かれた鋭い金目。


「ほんじつはおねがいがあってまいりました」


聞き入れて貰えないかもしれない。
いや、その確立の方が高い。
それでも、私はここで生を受けて決めたの。
あの子を守る為になら手段は選ばず、この人を亡くさない為に尽力するのだと。
たとえ、それがこの世界を歪めることになろうとも。





守護と残忍の二面性
童話・神話・物語05「オリンポス」(c)ARIA
write by 99/2010/11/10
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