葛藤なんてキリがない

景綱さんを言い包め、梵天丸の右目を取り除く役目を勤めさせました。
実年齢両手で事足りますが、精神年齢は前世の年齢を足して、景綱さんや綱元さんどころか輝宗様より上ですから、口で勝てると思うなよ、ふん。
喜多さんには押し負けるので、あんまり使えないんですけど、口喧嘩。
ともかく、私もちゃんと立ち会いましたよ。
梵天丸に言われて、ずっと手を繋いでました。
言うのが恥ずかしかったのか、可愛かったのなんのって。
思っていたより血みどろスプラッタにはならなかったなと思ってたら、喜多さんによく卒倒しませんでしたねと青白い顔で言われてしまいました。
あれ?結構スプラッタだったのかな?
唯一の救いは、神経死んでたことですね。
この時代、麻酔なんてないし、傷口冷やして麻痺さすにも、冷やす方法が問題で、流石に眼球から視神経にかけてを冷やすなんて出来るわけもなく、麻酔なしで手術とかどんだけ酷いことをって状態で取り除いたんです。
ぐにっと気持ち悪い感じはするけど、痛くないって言い切った梵天丸にビックリしたのは私だけじゃないはず。
景綱さんの精神状態の方が心配なくらいでしたよ。


「さかえ」

「はい、何でしょうか?」

「しょうどく、してくれ」


可愛いな、このやろう。
テキパキと読んでいた書物を片付けて、消毒の準備をして、梵天丸に手招きすると、抱き着くように飛びついてきた梵天丸を抱きとめる。
消毒は私じゃなくてもいい筈なんだが、梵天丸が来ちゃうんだ。
私は梵天丸を甘やかしちゃうのを自覚してるから、出来れば接触しないようにしたいんだけども、輝宗様がそれを面白がってくれちゃって。
梵天丸が私の元に通う所為で、(というか、お陰で?)義姫様のいる離れとは別の離れへと移動になりました。
西の離れなんで、義姫様と反対側、多分。
多分っていうのは、義姫様御懐妊っぽいんで、別棟に移住中かもしれないから。
本当に御懐妊だったなら、生まれてくるのは竺丸。
ある意味、犠牲者の子。
でも、私の記憶では、竺丸って既に生まれてる筈なんだよなぁ。


「終わりましたよ?」

「ん、ありがと」


消毒した後はまだ包帯で保護してます。
もう少ししたら、乾燥させる為に覆うのはやめさせなきゃいけない。
風通しのいい眼帯をなんとか入手できないものか。
細菌入ると怖いから、刀の鍔の眼帯はまださせないよ。
感染症怖すぎるよ、この時代。
現代でも運悪きゃ肺炎併発して死んじゃう風邪なんて、もう死亡率高くてげんなりするくらい。
天寿全うしてくれるなら、それで十分ですけど、史実じゃ結構長生きよね、政宗公ってことで、やっぱり輝宗様の死亡フラグ回避の方が骨折れかな。


「さかえ」

「どうしました?」


難しい顔して、私の顔を覗き込む梵天丸に視線を合わせる。
なんというか、顔のいいやつは何やっても似合うって言うけど、梵天丸は何やっても可愛い。
これは俗に言うブラコンですね、わかります。


「いたいかおしてる。オレ、さかえがいたいのいやだ」


なに、これ、可愛い。
ついこないだはボクって言ってたのに、輝宗様を真似してオレって言い出したのも知ってたけど、破壊力抜群だ。


「栄丸は痛くなどありませんよ。こうして、梵天丸様が心配してくださいますから」


言った瞬間、ぎゅむっと抱き着かれる。
照れ隠しなのかなんなのか、これはよくあることなので、スルーしてると、廊下から小走りの足音が聞こえる。
このタイミングは景綱さんでしょう。
初仕事が梵天丸の眼球を取り除くことだった割には、上手く関係を作れているようなので一安心。
喜多さんが居たのも環境的に良かったんだと思うけど。


「失礼します。梵天丸様を迎えにあがりました」

「ご苦労様です、景綱殿。さぁ梵天丸様、景綱殿が来られましたよ」

「もうすこし、さかえといっしょがいい」


即答ですか。
景綱さん可哀想じゃないか。
まぁこれが景綱さんが嫌いで言ってるなら問題なんだけど、そうじゃないから、景綱さんも苦笑気味。
そういや、景綱さん、敬語が板についてきたみたいで、良かった良かった。
にしても、困ったぞ。
この後、何もなければ、このままでも構わないんだけど、梵天丸は手習いがあるし、私は私で輝宗様に呼ばれてる。
景綱殿もそれを知ってるから、今日は早めに迎えに来たんだろう。


「梵天丸様、手習いの時間でございましょう?」

「やだ、てならいよりさかえがいい」

「栄丸では何もお教えすることはできませんよ?しっかりとした師に学んでこその手習いです。沢山のことを知れば自ずと沢山のことがわかるようになります。今はまだ必要ないことであっても、いつかそれは梵天丸様の助けとなりましょう。ですから、景綱殿と手習いに励んでくださいませ」

「さかえはぼんのことがきらいだから、おっぱらいたいのか?」


不安そうな顔は涙を堪えているのがよく分かる。
彼よりも少し大きな私の手で、小さな頬を包んだ。


「栄丸は梵天丸様のことが大好きですよ」

「わかった。かげつな、いこう」

「はい」


すくっと立ち上がった梵天丸はこちらを見ない。
正直、子供には難しいことだとわかっているのだ。
それでも、竜となる者が無知ではいけないから。


「さかえ」


廊下に出てはじめて、梵天丸がこちらを振り向いた。


「オレもさかえがだいすきだから、がんばることにする」

「はい」


子供の成長は早い。
すぐに大人になってしまう。
早く大人になれと促す私が、彼にはまだ子供で居てほしいだなんて、我儘だ。


葛藤なんてキリがない
テーマ・ファンタジー「オール×ナッシング」(c)ARIA
write by 99/2010/12/09
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