後戻りできないならば前へ前へ
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どうしようか、この可愛い生き物は。
ミニマム筆頭超絶可愛いんですよ、これ。
なに、これ、テイクアウトしたい。
このミニマムを手放すのは惜しいよ、ホント。
こりゃ、義姫様じゃなくとも溺愛する。
悶々とし過ぎた所為か、輝宗様の視線が痛い。
うん、気のせいじゃないよ。
今日の目的は梵天丸の兄として会うこと、なんですが、私はそんなつもり毛頭ないもんで。
だってさ、輝宗様忘れ去ってるんじゃないかって思うけど、私が伊達を名乗るのは元服まで。
そういう約束している以上、梵天丸が混乱するような情報は絶つべきだと思うわけで。
それでも、ここに来たのは、梵天丸の右目の様子を診る為だったり。
「梵、そろそろこっちにも来〜い」
「う…」
ちょっと難しい顔して黙り込んだ梵天丸に行ってもいいんだよと思って微笑んでみたら、更に抱き着かれた。
ギュイギュイ抱き着いてくるところがなんか輝宗様そっくりですね。
私もなんだかんだ梵天丸抱き締めてますけど。
だって、子供は温かいから。
「微笑ましいんだがな、俺が寂しいし、寒い」
輝宗様、本音が駄々漏れです。
でも、くっついて離れないんで、私にはどうしようもないから、我慢してください。
「梵天丸様、右の目を診せていただきたいのですが」
右の目って言った瞬間に、身体が固まった。
縮こまるように、力を入れているのが分かる。
もう既に、義姫様の言葉は傷になっているじゃないか。
守ると決めたのに。
落ち着かせるよう、癖のない髪を梳くように撫でた。
「大丈夫。化膿していないか診るだけですから。それに、私は傷や出来物一つで梵天丸様を嫌いになったりなどしませんから」
笑んで、なるべく優しい声で、語りかける。
兄として出来ることなど、名乗る気もない自分には少ししかなくて、それでも、義姫様に付けられた傷を不恰好ながらも塞ぐことに尽力しよう。
「わかった」
強い子だ。
本当に、強く逞しい子。
スルリスルリと包帯を解いて、露になるのは痛々しくグロテスクな傷跡。
それはやはりというか、このまま放置すると化膿してくるだろうことは、素人である自分でもわかることで、眼球を取り除いて、消毒することが一番望ましいのだろうけれど、どうしよう。
考えあぐねいて、かち合ったのは梵天丸の左目だった。
不安そうな色をして、私を見るその目に私は精一杯の笑顔を向ける。
そう史実ではどうだった?
それは私の得意分野だったでしょう?
思い出しなさい、先生。
梵天丸の右目を取り除いたのは、彼だったではないか。
はじめてのお仕事がこれってかなりヘビーだけど、仕方ないよね。
「梵天丸様、こちらの目、化膿する前に取り除きましょう」
神経が死んでることを祈ります。
だって、梵天丸が痛い思いをするのは嫌だもの。
勿論、私が言い出したことだから、立ち会いますよ。
失敗したら、彼に無理矢理させましたって私が切腹すればいいわけだし。
さて、と、私の発言に呆然としちゃってる輝宗様を何とかして、景綱さんに話を通さなくちゃ。
後戻りできないならば前へ前へテーマ・ファンタジー「ヤクタ・アレア・エスト」(c)ARIAwrite by 99/2010/12/08