賢しき案山子は脳を求む
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光を失った右目で最後に見た人に会いたい。
顔を見ることはなかった。
意識を取り戻してから暫く傍に居てくれた人は確かにあの人だったのに、ボクは呼ぶ名さえ知らない。
会いたいと父上に言っても、父上は困ったという顔をするばかりで、会わしてもらえない。
最後に見たのはボクを庇う背中。
ボクよりも大きいけれど、小さな背中がボクを守るように、母上に向かっていた。
「梵、居るか?」
余所余所しくなった女中達の声じゃなくて、父上の声に襖を開いた。
「ちちうえ」
自然と笑みが浮かび、父上も笑っていて嬉しくなった。
父上に視線を合わせていた所為で気付かなかったけれど、父上の少し後ろ、ボクよりも少し年上だろう子供が居た。
見間違えるわけがない。
あの人だと、すぐに分かった。
ずっとずっと会いたかった人。
ボクを助けてくれた人。
「え?」
子供が驚いた声を上げる。
当然と言えば、当然だった。
ボクが抱き着いたからだ。
「あの、輝宗様…?」
「ハハッ暫くそうされてろ、栄」
戸惑った声音で父上を伺う子供に、父上は豪快に笑っていた。
栄。
父上がそう呼んで、子供の名前を知る。
「さかえ?」
「はい。栄丸と申します」
「ボクはぼんてんまる」
抱き着いたままは行儀が悪いと思ったけれど、放したが最後、栄が居なくなってしまいそうで怖かった。
「その、少しだけ離れてはいただけませんか?」
「…い、やだ」
「梵天丸様?」
困ってる。
困らせているのはボクだ。
それでも、離れたくないと思うのはなんで?どうして?
「では、失礼しますよ?よっと」
掛け声と共に、少し宙に浮く感覚がして、正面から抱きついたまま栄に抱えられたことを知る。
よたよたと覚束無い足取りで、室に入るとボクを畳に下ろす。
片目で見上げた栄はほわほわと笑ってくれた。
賢しき案山子は脳を求む童話・神話・物語「オズの魔法使い」(c)ARIAwrite by 99/2010/12/07