きっと君には敵わない

栄に思うところがある様子だった景綱を栄のところに置いてきたはいいが、正直落ち着かねぇ。
景綱の人となりは知ってはいるが、栄を傷付けないかと言えば、微妙なところだろう。


「結局んところ、こうなっちまうんだよな」

「何をなさっておいでですか?殿」


愛想笑いさえない喜多に見下ろされている現状は滅多にあるもんじゃねぇ。
いや、本来ならある筈がないんだが。


「栄丸様がご心配なのですね」


わかり易いほどに吐かれた溜息に居心地の悪さを感じる。
何だってまぁ、うちの息子は平気なんだ、これが。
盆を置いて、客人用の湯のみに入った茶を手渡される。


「景綱も栄丸様もお互いに何か感じるところがおありなのでしょう。ただ心配なのは、景綱の敬語の出来ぬところでございます」

「栄は気にしねぇよ、俺と一緒で」

「だからこそ、甘やかされては困ります」


姉の顔で怒る喜多を景綱は知っているのだろうか。
本気で怒っているのだろうが、それでも本気ではないような、困ったようなそれは、最近、栄のするようになった表情にも似ている。


「何をっ!!」


怒鳴るとは何か違う景綱の声に、据えた腰を上げる。
襖越しに感じる気配に気を配り、耳を澄ました。


「父上には私から進言します。私は確信を持っております。片倉景綱殿、貴方があの子を竜へ成す傍らにあるべきなのだと」

「だから、何を根拠に」

「私だから。それではいけませんか?ねぇ父上」


気付いていたかと、喜多に目配せして、襖を開けた。
いまだに慣れない我が息子の聡さは、怖いくらいだ。


「何の話かは知らねぇが、納得しといた方が気が楽だぜ?景綱」

「殿…」

「で、何の話なんだ?栄」


いつからそこに?という顔で項垂れた景綱を無視して、栄を抱き上げ、自分の膝に座らせる。


「景綱殿を梵天丸の傅役にしていただけませんか?それから、乳母に喜多を」

「喜多はお前の乳母だろう、栄」

「はい。でも、それが一番いいのです。今まで、梵天丸の世話は母上と傍仕えの方々がされていたでしょう?これからはそうはいきません。それは、先日の母上の様子からもお分かりになられますでしょう。喜多ならば、大丈夫だと私が保障いたします」


相変わらず、子供らしくはねぇが、言っていることに間違いはねぇ。
栄が梵を思っていることは、先の梵が疱瘡に罹った時と先日の義との衝突で良くわかっている。


「それが一番なんだな?」

「はい」


今はその笑顔で十分か。


「わかった。景綱に任せりゃいいんだな?」

「はい」

「その前に、栄、正式に梵に会ってやれ。あれから、お前に会わせろって煩ぇんだ」


笑顔が一瞬少しばかり曇った気もしたが、一寸の間をおいて頷いた栄を思いきり抱き締めた。




きっと君には敵わない
テーマ・ファンタジー「オール×ナッシング」(c)ARIA
write by 99/2010/12/06
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