わたしは唯一のわたしであり

言い過ぎた…。
栄丸は猛烈反省中なんです。
誰も私には構わないでくださいませ。
放っておいてください、えぇ切実に!
本気でotzって状態なんですよ。
いや、そんな格好しようものなら、こっちを伺っている喜多さんに何て言われるか。


「栄丸様」

「はい」

「本来ならば咎めねばならないのですが」

「はい、申し訳ありません」

「ですが、喜多個人としてはお見事でしたと申しておきます」


喜多さん、本気で義姫様嫌いですよね。
そうですか、喜多さんからのお咎めはなしですね。
となると、輝宗様からのお咎めがきそうなんですが。


「喜多」

「何でしょう?」

「私は伊達の子で居るつもりは毛頭ないのです。ないのですが、梵天丸の兄であるということは捨てきれない。捨てたくない」


それは私の本心。
伊達家の嫡男という立場に執着は一つもなくて、手放すことが惜しいと思うのは父上と呼べる存在である輝宗様と弟の梵天丸。
床に伏して尚、梵天丸が呼んだのは母である義姫様で、それを知っているからこそ、私は許せなかった。
最初から与えられなかった私とは違い、あの子は母から与えられる無償の愛情を知っている。
そんな梵天丸の突き放された想いは考えるまでもないではないか。


「栄丸様、よくお聞きくださいませ」


目の前で膝を突き合わすように正座して、喜多さんが私を見据える。


「栄丸様がどんなに拒まれようと栄丸様は伊達家の嫡男に在られます。輝宗様のお子様で、梵天丸様の兄上です。それはこの先なにがあろうと変わらない事実なのですから、捨てる必要などございません。誰も知らぬ智がなんですか、栄丸様は人より少し聡く賢いだけでしょう」


スッと喜多さんの右腕が上がって、私の左目を拭う。
その仕草にはじめて涙を流していることに気付いた。
あぁ涙脆くなったものだと思う。


「だから、栄丸様がご自分を卑下なさることなどないのですよ」


それは酷く優しい響きを持っていて、更に涙が流れるのをどこか遠いように感じていた。



わたしは唯一のわたしであり
テーマ・ファンタジー「Q.E.D.?」(c)ARIA
write by 99/2010/12/02
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