賽は投げられたのだから

この時代、疱瘡は死の病だ。
城主伊達輝宗様の実子といえ、梵天丸の寝かされている室は医師以外人払いされている。
その医師も、輝宗様の命で今は席を外しているのだそうだ。
本当に私に一任してくださった。


「失礼しますよ、梵天丸」


一声をかけ、室へと入る。
苦しげに眉を寄せるその姿はまだ幼い外見に似つかわしくないものだった。


「絶対に助けてみせるから」


小さな手を握って、誓いを立てる。
何が出来るわけでもない、けれど、この子が病に打ち勝つ力があることはわかっている。
この時代の技術では治療することさえも出来ない。


「んっ」


小さく身じろいだ梵天丸が僅かばかり目を開く。
高熱に浮かされたからなのか、疱瘡の影響か、どろりと濁った目がこちらを見やった。


「だ、…りぇ……」

「栄丸と申します。梵天丸様のお世話をしに参りました」


判断能力が熱でいってしまっているんだろう。
そっと伸ばされた手は、私に届く前に褥に落ちた。


「なんで、私はここに居るんでしょうかねぇ、綱元」

「梵天丸様が全快なされた宴だからですよ」


月日が経つのが早過ぎるだなんて、今更でしょうに。
全快したというには少し早いんですけど、まぁ皆さん発症してそうな雰囲気もないので、いいか。
梵天丸の傍で世話をし、彼の症状が落ち着いて、熱も下って意識もはっきりし始めた頃に医師を呼ばせた。
で、医師の判断で、無事全快だそうです。
結構長いこと一緒だったのですが、毒の効きにくい体質は病にも有効だったようで、ピンピンしてますよ、私。
そして、やはり右目がケロイド状態で失明、未だに包帯は取れておりません。
他に痕が残らなかったのは奇跡としか言えないよね。
その点においては良かったと胸を撫で下ろしております。


「栄、梵を助けてくれたこと礼を言う」

「はい」


何がどうなってこうなったのかわからないんですが、梵天丸が治ったのは私が何か治療したんだということになっているらしく、この宴への参加となったわけです。
いや、梵天丸が倒れたって女中さんの話を耳にして、勝手に座敷牢から出て礼儀も何もあったもんじゃない状態で輝宗様に直談判したわけなんで、本来なら罰せられていても仕方ないのに、待遇が良すぎるので、変なフラグ立てたんじゃと疑心暗鬼。


「義が来る。栄、どうする?」


私居たんじゃ空気最悪ですよね、それ。
でも、と、視線で確認したのは今日は喜多に世話をされている梵天丸。
まだ梵天丸は義姫様に会ってない。
即ち、最も起こって欲しくないイベントが起こる可能性大なわけで。


「今日ばかりはここに居させていただきます」

「そうか」


そんな痛ましい表情しないでくださいな、輝宗様。
私は辛くともなんともないから。
意識が朦朧としている状態とは言え、梵天丸とあんな近くで過ごせたし、輝宗様にちゃんと見てもらえているだけで十分ですしね。


「梵天丸、妾にお前の元気な姿を見せておくれ」


来た。
次に聞こえるのは、絶叫?罵声?泣き声?
どれにしたって、私の守るものは傷つけさせはしないよ。



賽は投げられたのだから
テーマ・ファンタジー「ヤクタ・アレア・エスト」(c)ARIA
write by 99/2010/11/30
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