砂漠の涙で光射す
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有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない。
どうして、こうなった?
城内の者達が騒がしく喧しい中を私は駆け抜けた。
後ろから慌てたように綱元さんが私を止めようとしているけれど、そんなもの知ったこっちゃない。
いや、本当に申し訳ない。
けど、こっちも必死なんですよ。
「失礼します、父上」
返事も聞かずに、輝宗様の執務室の襖を勢い良くスパンッと開いた。
えぇそれはもう気持ちよく。
「栄?」
戸惑いを露にして私の名を呼んだ輝宗様の前で頭を下げた。
後ろに追いついてきた綱元さんが同じように頭を下げる。
「梵天丸のことを私に一任してくださいませんか?」
室内に居た大人が息を呑む。
それを雰囲気だけで感じ取り、輝宗様に視線を向けた。
真っ直ぐに視線を合わせるのは、絶対に退かないという決意と意思。
輝宗様もそれだけは許さないと言いたいのか視線を逸らさない。
「この栄丸、父上と梵天丸の悪いようには決して」
栄丸として生を受けて、決めたんだもの。
梵天丸だけは救ってみせると。
彼の支えになってみせると。
輝宗様が居心地悪げに視線を逸らし、項辺りをボリボリと掻く。
「分かった」
「輝宗様!」
溜息と共に吐き出された了承に、綱元さんの非難の滲んだ声が飛ぶ。
輝宗様が私に目線だけで、早く行きなさいと指示されたので、綱元さんを気にしつつも、そこを失礼することにした。
「綱元、栄の好きなようにさせてやれ。あれは、お前や俺が思っている以上に聡い」
廊下に出てすぐに聞こえてきた輝宗様の言葉に足を止めた。
普段のそれより、優しい声。
「あの子の智に恐怖を覚えることもある。だけどな、ただ聡いというだけじゃ駄目か?妖だなんだとそう思えりゃ楽なんだろうがな、あの子は、栄丸は間違いなく俺の子だ」
身体が震えて、足から力が抜けて、その場に座り込む。
ボロボロと零れ落ちた水滴は廊下を濡らす。
一緒に何かが零れ落ちたような気がした。
「私は、“私”でいいの?」
砂漠の涙で光射す童話・神話・物語「ラプンツェル」(c)ARIAwrite by 99/2010/11/21