ああまったくこの世は尽きぬ欲ばかり

梵天丸が疱瘡を患うのって4歳だっけか?
あの4歳は実年齢なのか、はたまた数えなのか。
それによって、随分と変わってしまうんですけど。
いやね、歴史大好きだったけどさ、頭の中に全て入ってるなんて異常な記憶力は持ち合わせてないよ。
ただの社会科教諭志望の教育実習生だもの。
どうでもいいことは結構覚えてるんだよね。
そういうもんだよね、記憶って。
生前、色んなことを齧りすぎたから、夢小説なんてのも読んだ覚えはあるけれどね、あぁいうのって実際起こるわけないから読めるわけで、異常記憶力とか逆ハー特典とかあるわけないものも許せるわけで、うん、自分がこうなるなんて誰が思ってるかっての。
つか、ある意味黒歴史なんだよ、ホント。
チカのクラスの窓際列後ろから2番目に座っていた子は絶対に腐女子の類だと思ってたんだけど、結局どうだったのかしら。
まぁそんなどうでもいいことは置いておいて。
気付けば、梵天丸が生まれて丸3年の月日が経過しました。
1度も会ったことないけどね。
1度も会ったことないけどね!
大事だから、2回言ってみた。
あの日から数日後に、私の室は座敷牢と思わしき場所に移されました。
輝宗様がしっぶい顔をしていたので、古狸どもが押し切ったと思われます。
口悪いなんて今更さ。
それでも、私の乳母も傅役も変わることなく、喜多さんと綱元さんがしてくれてます。
変わったことといえば、輝宗様の訪問回数ですよ。
しかも、スキンシップ過多という特典付き。
え、なに、このバカ親と思ったのは記憶に新しい。
ちゃんと梵天丸のところにも行ってるみたいだし、いいのだけどね。
どうやら、輝宗様の中で私の存在というものに対して何かを吹っ切ったようで、子供扱いしながらも、話す内容が親子の会話ではなくなりました。
存在チートだから、伊達家というか奥州自体をチートにしてしまってもいいんだけど。
最近は梵天丸を独り占めする義姫様の愚痴が主になってきていたりもしますけど。
今日も今日とて、輝宗様に抱っこ人形宜しく、膝の上で抱えられて旋毛辺りに顎を乗せられ、お話中です。
ホントどうでもいいけど、この体勢好きだよね、輝宗様。
というか、輝宗様が義姫様の愚痴を零す度に喜多さんと綱元さんがそのまま追い出してしまえ!みたいな顔してるんで、多少は自重してください。


「父上、梵は息災でしょうか?」


梵っていうのは勿論梵天丸のことです。
輝宗様が最近は私のことを栄って呼ぶので、梵天丸は梵になりました。
そうそう、身体が成長したのか、随分流暢に話せるようになったんですよ。
お陰で、更に子供らしさがなくなりました。


「栄は本当に梵のことばかりだな」


心配なんですよ、もしかしたらもうすぐ疱瘡になってしまうかもしれないんですから。
だから、ギュイギュイ抱き締めないでくださいよ、輝宗様。
腹に回った腕がきついんですよ。


「義が放さねぇんだ。俺が行っても殆ど会えねぇ」


あんまりいい傾向じゃないですね、それ。
史実通りに疱瘡にかかってしまうと仮定して、義姫様の反応が良いものじゃないのは馬鹿でもわかる。
この世界の政宗が独眼なのは確実だし、疱瘡に罹らなくとも何らかの理由で片目は失ってしまうのだろう。
そうなれば、義姫様の心中を考えれば、穏やかではいられない。


「父上」


少し緩まった輝宗様の腕の中で身体を反転させる。
真っ直ぐに見つめるのは、あの政宗の独眼と同じ金眼。


「梵天丸に少しでも平素と違うところがありましたら、すぐにお知らせいただけませんか?」

「わかった」

「有り難うございます」


訝しみながらも私のことをしっかりと認識してくれようとする。
そんなことを思ってはいけないのに、心から思ってしまう。
幸せだと、これが続けば良いのにと。




ああまったくこの世は尽きぬ欲ばかり
ダーク「クリフォト」(c)ARIA
write by 99/2010/11/19
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -