世界は形をかえていく


「わたしはこのばにてかとくをほうきさせていただきたいのです。だてのこうけいにふさわしいのは、わたしなどではなく、このたびうまれたぼんてんまる、そのこです」


これは誰だ?
そう俺が思ったのも、仕方のねぇことだと思う。
我が息子が願ったはじめての願いは俺の想像どころか、倅の後ろに控えた綱元の想像さえ軽く越えたらしい。
おぅおぅ綱元の顔が間抜けなことになってんじゃねぇか。
俺も他人のことは言えねぇんだろうが。
目線をしっかりと合わせたままの栄丸は、正直なところ、アイツの血はどこいったってくらいに俺に似てる。
色素の薄い茶の髪も、眼光鋭い金の眼も。


「栄丸」


息子と目線を絡ませることが、息子が話している声を聞くことが、はじめてだなんて聞いて呆れる。
それをどこか嬉しいと感じている俺自身にも、呆れて物が言えねぇ。


「誰が何を言おうと、お前は俺の息子だ」


そう誰が何と言おうと、目の前に座るこの幼子は俺の息子の栄丸なんだ。
この子が生まれてから、この子と過ごした時間等、数える程しかない。
義が栄丸を我が子と認めないどころか、会おうとすらしない状況を何とかすることも出来ない自分が情けなかった。
執務が忙しいことを言い訳にして、喜多と綱元に栄丸を任せきりにした。
時間が出来て会いに行っても、室から外を眺めるだけで俺に向かって来ない栄丸にどうしてやればいいのかもわからねぇで、すぐに目を背け本丸に戻った。
自分から話しかけたことはなかった。
話しかけてやれば良かった。
抱き上げてやったのは、生まれてすぐの時だけ。
抱き締めてやれば良かった。
後悔は、尽きることなく、この胸に重く凝った。


「てるむねさま」

「もう父とは呼んでくれないのか」


追い詰めたんだろう。
知っていた。
栄丸が城内で何と呼ばれているか。
鬼児や妖の類だと、そう言われているのを俺は知っていたんだ。
知っていて、何の対処もしなかった俺が、今更父親と呼んで欲しいだなんて、虫のいい話だ。
なのに、無駄に回転しやがるこの頭は、どうにかして栄丸を手放さなくていい方法を考えている。


「栄丸、せめて、お前の元服まで待ってくれねぇか?」


元服すれば、何とでも出来る。
伊達から手放すことになろうと、城から手放さなければいい話だ。
その時に、栄丸に卑怯だと罵られてもいい。
悪いが諦めは悪い方なんだ。


「げんぷくでございますか?」

「あぁ」

「わかりました。もし、それまでにわたしがじゃまになりましたならば、すぐにきりすてください」

「約束する」


きっと、その約束は破ることになる。
邪魔になることがあったとしても、俺は斬り捨てることなんて出来やしねぇ。
それでも、この約束をしないと栄丸は納得しない。


「そろそろしつれいします」


一礼をして、そそくさと俺から離れて行く栄丸の後姿を引き留めることなく、見送った。


「あれをどうすりゃ守れるんだろうな」


呟いた言葉に応えはなかった。




世界は形をかえていく
和「万華鏡」(c)ARIA
write by 99/2010/11/15
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