5話
『さくちゃん』
最近、よく思い出す。
私を呼ぶ“あの人”の声。
柔らかくて、温かくて、大好きだった。
「三井さん」
突然、呼ばれて、そちらを見ると、あまり喋らないクラスメイトがこちらを見ていた。
「なに?」
「お客さん」
お客さんとやらに、視線を向ける。
隣の席で肘をついてボーッとしていた丸井くんがガクリと崩れた。
「だれ?」
知り合いらしい丸井くんに訊く。
丸井くんはバツが悪そうに苦笑を浮かべた。
「柳と、柳生」
丸井くんのその表情に気付かないフリをして、私は席を立った。
何が間違いだった?
ただ
好きだっただけ。
それが間違いだったの?
知らぬ街に降る雪は
Side:You