3話
「なんで、仁王の名前知ってたんだ?」
隣の席になった転校生に朝から引っかかっていた疑問を口に出した。
転校生はむちゃくちゃ驚いた顔をして、俺を見上げる。
パチンと、風船ガムを割った。
「におう、まさはるっていうの?あの人」
頷けば、転校生が青ざめる。
まるで、幽霊を見たやつみてぇとか思った。
「知ってたんじゃないのかよぃ?」
転校生がフルフルと首を横に振った。
否定。
フルネームを何故知っていたのかなんて、もう問えなかった。
青ざめた彼女が、それを拒否していた。
それから数日、俺はなんとなく転校生を観察してた。
明るくて、クラスに溶け込むのは早かった。
ただ授業中に思い出したように目を瞑る。
泣きそうな顔をして。
「仁王さん」
職員室を通りかかった時に聞こえた名字に、珍しく仁王が職員室にいるぜぃ、と、思って覗いた。
そこにいたのは、予想した仁王じゃなくて、転校生の三井だった。
「三井です。戸籍上は仁王ですが、私は三井さくらなんです」
苦しそうな声だった。
今にも泣き声に変わってしまいそうで、痛い声。
引っかかっていた疑問が少し解けた気がした。
三井 さくら
仁王 さくら
どっちが君…?
知らぬ街に降る雪は
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