39話




みんなを送り出してドアの鍵をかけた。


「はぁ」


思わず、口から出たのは溜息だった。

ズルズルとドアに体重を預けて、座り込む。


「“雅治くん”」


今日、何度目かの名前を紡いだ。

勿論、返事など返ってこない。

あの日から、この名前をいくら呼んでも返事は返ってくることなどないのだと、嫌というほど知っている。


「“雅治くん”」


それでも、口をついて出るのは、彼の名前だけだった。

ふと、視線を上げれば、靴箱の上に置いた写真立てが目に入る。


「“雅治くん”」


ただ名前を呼んでいるだけなのに。

私は“雅治くん”を求めちゃいけないのに。

どうしてなのかな?


「“ま、さ…治、くん”」


涙が溢れて、写真の中で笑う“雅治くん”が歪んで、見えなくなっていく。


「もう、泣きたくなんかないのに…」


言葉とは裏腹に涙は流れ続ける。

クゥーンと悲しみを含んだ鳴き声がして、そちらを見れば、ハルが心配そうにこちらへと歩いてくるところだった。


「ハル、おいで」


玄関に座り込んだまま、両手を広げて、ハルを呼んだ。

ハルの足が少し早まる。


「いい子だね、ハル」


私に飛びついたハルは、私の涙を拭くように、頬をペロリと舐めあげる。


「大丈夫だよ」


ハルを撫でて、ニコリと笑えば、ワフとハルが一つ吠えた。



涙を拭いてくれたのは

“あなた”じゃなくて

“あなた”の名前から付けた名前の友達でした




知らぬ街に降る雪は
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