37話




「遅くまで悪かった」

「ううん。私の方こそ、今日はごめんなさい」


精市の笑顔に、先を急ぐようにそそくさとエレベーターへと急いだ赤也を横目に三井に礼を述べた。

俺が赤也を横目に一瞥したことで赤也の分の礼も含まれていると感じたのか、彼女は苦笑にも似た笑みを浮かべて笑った。

いつもなら、赤也と競うように出て行っていたであろう丸井も苦笑を浮かべている。


「こんな家で良かったら、また来てね」


媚びを含んでいない誘いは久しぶりだった。

それに精市が穏やかな笑みを零し、


「ありがとう」


と、呟いた。


「今度は手料理食いに来っから」


丸井は丸井で、そう笑った。

仁王は緩慢な動きで赤也の後をゆったりと歩いている。

奴にも何か思う所があるのだろう。

詐欺師という通り名の通りか、精市よりも本心の読みにくい男だ。


「もう時間も時間だし、ここでいいぜぃ」


三井を気遣う言葉を発したのは丸井だ。

男4人が帰るのに危険性は高くはない。

むしろ、このままエントランスに三井が降りてくる方が危険だろう。

それを考慮した言葉に俺の口角が上がる。

ふと視線を移せば、精市が孫の成長を見守る祖父のような瞳で丸井を見ていた。


「お言葉に甘えて、この辺りで。また、明日」

「あぁまた明日」


軽く振られた手に自分の手を振り返し、彼女に別れを告げる。

エレベーターに乗り込み、扉が閉じた途端、精市の笑顔から穏やさが消え、何か核心に触れそうな雰囲気が漂い始めた。





お前と過ごすことで

何かしらを学び

俺達は成長していた



知らぬ街に降る雪は
Side:Renji




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