1話




俺たちが練習を終えて、HRまでに教室に行こうとしてる時だった。

追い抜かした子が、不意に口を開く。


「まさはるくん…?」


赤也が、立ち止まる。

呼ばれた仁王も立ち止まった。


「知り合いかのぅ」


どこか冷たい笑みを浮かべた仁王が訊く。

彼女は口元に手を当てて、ひどく驚いた目をしていた。


「ごめっなさい、知り合いに似てたの」


そう言い繕う彼女に、赤也は呆れたようだった。

普段、友達の前では仲が良いんだと自慢するように名前呼びをするファンなんて大勢いたし、だから、彼女もそういう類だと思ったから。


「本当にごめんなさい」


すぐに違うと俺は気付いた。

彼女の目が悲しみに揺れてたから。

それは、仁王自身を見てるんじゃなくて、仁王に誰かを投影して見てる目だった。

走り去ろうとした彼女が不意に振り返って、戻ってきた。

その目は仁王を映さないようにしていた。


「申し訳ないんですが、職員室の場所教えてください」




あの時、

彼女を追い越さなければ、

俺たちは彼女を苦しませなくてすんだのかもしれない。




知らぬ街に降る雪は
Side:Bunta




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