36話
チャイムの音に鍵を開けに出て行った幸村が帰ってくるのを俺は1人で和室で待っとった。
聞こえてくる赤也の元気な声に少し苦く笑う。
どうやらいつもん調子が戻ってきとう。
赤也を諫める参謀の声も聞こえてくる。
それに便乗するような丸井の声。
「あーっ仁王先輩、ゆっくりお茶飲んでずりぃ!」
和室を開けた赤也の声が騒がしくなる。
ずるいも何も元気よぉ飛び出してったんは赤也じゃ。
「こっちはこっちで幸村と2人っきりじゃ」
「うわー…」
悲惨な声が幸村に聞こえとらんことを祈ってやろう。
幸村と2人っきりなんはどうでもえぇ。
今は佐伯の方が俺にとっちゃ問題じゃ。
「何かあったのか?」
いつもみたいに閉じた目で参謀に見つめられる。
一つ溜息を吐いた。
「まぁな。ウチの部長さんはまた良からぬことを企てとるみたいじゃよ?」
誰にとって良からぬことかは敢えて口に出さずに参謀に告げた。
参謀の口からも溜息が一つ零れた。
「良からぬなんて失礼だなぁ」
ニコニコと人当たりの良さそうな笑顔を浮かべた幸村に思わず顔をしかめかけた。
「さて、そろそろ帰ろうか」
幸村の言葉に、佐伯のこと以外に丸井達の行った三井の迎えでも何かがあったのだと知った。
いつも俺が知るんは
事が済んだ後で
後悔しかできんのじゃよ
知らぬ街に降る雪は
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