35話




帰ってきたブン太の顔が少し赤い気もするけれど、それよりも三井さんの手にある手紙らしき紙の方が気になった。

少し放心してるようにも思う。


「三井さん?」


俺の声にハッとしたように三井さんが顔を上げる。

目尻が赤くなっているのに気付いた。

その赤みは泣いた後にできるものだ。


「三井さん、何かあった?」

「え?」


鍵を閉めていた三井さんが、きょとんとした顔で振り返る。

俺は手を伸ばして、赤みに触れた。


「赤くなってる」

「幸村君…」

「言いたくないならいい。でも、心配なんだ」


ヒトには言うことの出来ないこともある。

それは理解している。

俺にだって、そういうものがある。

俺だけじゃない。

アイツらにもそれはある。

それでも、聞けるのなら、聞きたかった。


「ま、“雅治くん”から、」

「お義父さんから?」

「手紙が」


そこまでが限界だと感じた。

三井さんの目が、絶望を映していた。





その絶望に

どれほど君が“仁王雅治”を

愛していたのかを

知ってしまった




知らぬ街に降る雪は
Side:Seiichi




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