34話




「三井先輩、これ」


少し声を抑えた切原君に渡されたのは自分が泣き崩れる原因になった手紙だった。

見間違えるわけもない“雅治くん”の綺麗な文字が綴ったのは、私には残酷な言葉だった。

あんな約束なんていらなかったのに。

その約束が唯一私に繋ぐモノなのだと知ってしまった。


「ありがとう、切原君」


そう言うと、切原君は照れたように笑った。

可愛いなんて思うのは、切原君に失礼な気がしたけど、兄弟のいない私にこんな弟が欲しかったと思わせるには十分だった。


「赤也!赤也って呼んでください!!」

「赤也君?」

「はい!切原なんて名字で呼ぶの柳生先輩とか先生とかばっかだし、他はみんな名前で呼ぶから、その方が呼ばれ慣れてるんで」


ニコリと笑った切原君に私は頷いた。


「よろしくね、赤也君」

「はいっさくら先輩」


おどけたように敬礼した赤也君に、懐かしさを感じた。

彼らは今どうしているだろうか。

私がただ一言『さよなら』だけを告げて、突き放してしまった優しい彼らは。


「精市、開けてくれ」


インターフォンに向かう柳君の声で我に返った。

いつの間にか、エレベーターを降りて、私の部屋の前にいた。

カチャリと音が聞こえ、ドアが開く。


「おかえり」


穏やかに笑う幸村君の声が胸を温かくしてくれた。

あの幸せだった日が帰ってきたような気がした。




お母さんがいて

“雅治くん”がいて

凄く幸せだったあの日


もう取り戻せはしない

幸せの残骸




知らぬ街に降る雪は
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