33話
泣き続ける三井を抱き締めて、ただ背を撫で慰めるしか、俺には出来なかった。
「雅治くん」
時々、三井が漏らす言葉は俺達の知らない“仁王雅治”の名前で、無性にやるせなかった。
ココにいるのは俺達で、三井を今抱き締めてるのは俺なのに、三井が求めるのはただ一人。
“仁王雅治”だけ。
「丸井、とりあえず部屋へ戻るぞ」
柳にそう言われて、ココがエントランスだと思い出した。
このマンションの住人に見られたら、俺達が泣かしたみたいにしか見えない。
「おぉ」
同意してみたが、いまだに涙を流す三井をどうすることもできず、柳に視線だけを送る。
しかしながら、柳が何かしてくれるわけでもなく、自分でどうにかしろと視線だけで返された。
柳って結構冷たい。
「三井、とりあえず部屋戻ろ?な?」
弟達が泣いた時に宥めるように言ってみたが、なんだか自分が自分じゃないみてぇで恥ずかしい。
「ごめ、なさい」
自分が何をしていたのか気付いたのだろう三井に謝られたが、気にするなと肩を一つ叩く。
赤也とは違う意味で充血した痛々しい目が俺を見上げる。
そんなに変わらないと思っていた体型は意外と差があって驚いた。
男女比とだけでは言い切れない華奢な体格をこの腕で抱き締めていたのだと思うと、今更ながら、頬が火照った。
「丸井君?」
「なっんでも、ねぇ」
たどたどしく不自然になった言葉を無理やり繋げた。
「丸井先輩、三井先輩、閉めますよー」
エレベーターから呼ぶ少し大きな赤也の声に俺達は顔を見合わせて、エレベーターに走り込んだ。
今ならわかる
俺はお前が好きだったよ
知らぬ街に降る雪は
Side:Bunta