31話
録音に切り替わった電話から聞こえたのは知っている声だった。
『さくら?先生に無理を言って電話番号を聞いたんだ。まだ帰ってないの?とにかく、君に会いたいんだ。またかけるよ』
手短にメッセージを伝えた電話口の相手に俺達は顔を見合わせた。
彼女がまさかテニスに関わる人物と知り合いだとは思っていなかったから。
「あの声て…」
「六角の佐伯だね」
「じゃよな」
今考えて一番しっくりとくるのは三井さんが六角出身だということだ。
俺達は三井さんについて何一つ知らないに等しい。
知っているのはただ彼女と俺達を繋ぐ“仁王雅治”の存在だけ。
柳なら何か知っていたかもしれないけれど、如何せん、柳は今赤也とブン太のストッパーという役割で彼らと共に三井さんを迎えに行っている。
「マネージャーね」
仁王の本心を垣間見れるかと持ち出したただのネタだった筈の話を現実としてしまおうか。
それはきっと俺達には良い刺激になる。
三井さんは俺達の器を口に出して褒めたり、俺達に甘い声をかけたりはしなかった。
きっと彼女は俺達が見てきた女の子とは違う。
「アイツもそうだと知ってるのかな」
アイツ、佐伯はそれを知っているから彼女と親しくなったのかもしれない。
三井さんは佐伯とどういう関係なのだろうか。
随分と親しげな雰囲気で語りかけた佐伯の声を思い出す。
彼は俺達が一番知りたいのに知ることのできない“仁王雅治”を知っているのだろうか。
「幸村」
「なんだい?」
「やめといた方がよかよ。傷付くだけじゃ」
首をゆっくり左右に振る仁王の表情は読み取れなかった。
傷付くだけなのは
俺達だったのか
彼女だったのか
それとも
君だったのかな?
仁王
知らぬ街に降る雪は
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