30話




2人しか居らんくなった空間に沈黙が落ちる。

ポツリと幸村が淹れたお茶を飲まずして出ていったことに文句を零した気がしたが、気のせいじゃと思いたい。


「わざわざ参謀まで行かせて俺と何の話をする気じゃ?幸村」

「仁王は話が早くて助かるよ」


幸村の女みたいに繊細な顔にはニコニコと笑顔が浮かぶ。

それがただ優しく穏やかなもんじゃないっちゅうんがわかるんは、伊達に長年仲間をしとらんからか。


「三井さんをマネージャーにしたいなぁと思ってね」

「ほぉ」

「彼女は俺達をちゃんと俺達として見てくれるだろうから」

「そうやの」


三井さくらは俺達をアイドル視せん貴重な奴じゃろう。

顔しか見んファンちゅう奴とは違う。

ブン太が惹かれたんはそういう部分じゃろ。


「反対しないのかい?」

「部長が決めたんなら、部の為になるんじゃろ」

「仁王ってさ、自分を見せたくないのか、見せる方法を知らないのか、どっち?」

「なんじゃ、藪から棒に」

「ずっと気になってたんだ」


ふふっと笑うた幸村の目は、全然笑っとらんくて、無性に怖かった。


「俺、詐欺師じゃし?」


お決まりとも言える台詞を吐けば、なんか鉛みたいな重いもんを胃に感じた。


「そうだったね。やっぱり三井さんに頼んでみようかな」


クスリと実に楽しそうに笑んだ幸村に俺は何も言わんかった。

再び降りる沈黙。

沈黙を破るように、突如として、鳴り出したのは、三井さくらの家の電話だった。


「とった方がいいかな?」

「やめときんしゃい」


時々、幸村は俺より常識がなくなるように思うんじゃが。

電話の着信音はけたたましく鳴り続ける。

ピタリと、その音が止む。


『はい、三井です。只今留守にしております。ご用の方はメッセージをお願いします』


三井さくらの声が留守電に切り替わったことを知らせた。



もっと

声を聞いていたかった

だなんて

俺らしくないと


お前さんは笑うんじゃろうか…?




知らぬ街に降る雪は
Side:Masaharu




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