23話
それからは苦しかった。
自覚してしまったから。
母に嫉妬してしまうくらいに、“雅治くん”が好きなんだって。
『さくちゃん』
そう呼ばれるのが好きだった。
“雅治くん”だけが“さくちゃん”と呼んでいたから。
でも、呼ばれる度に苦しかった。
苦しくても、私がその想いをぶつけることはなかった。
解っていたから、“雅治くん”の特別が母だと。
そして、高校2年の夏、母が亡くなった。
『さくちゃん、これからは俺が君を守るから』
火葬場で“雅治くん”はそう言って私を抱き締めたの。
それから、2ヶ月程、2人で暮らした。
今から1ヶ月くらい前の雨の日、“雅治くん”は私の前から姿を消した。
朝は晴れていて傘を持ってなかったから、ずぶ濡れになって帰ったアパートの一室。
何も変わらない部屋から“雅治くん”だけが消えてしまった。
残されたのは知らない間に私の通帳に入金された多額のお金と、ハルだけ。
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「それから、3日後。突然、電話があったの」
「誰から?」
「氷帝学園の榊先生」
消えた義父
突如として現れた
有名校の先生
何も知らないのは“私”だけ
知らぬ街に降る雪は
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