22話
三井さんの話に聞き入っていた俺達は一度区切られたような状態だった。
彼女にとって、どれだけ負担がかかるのか俺達にはわからないことだったけれど、確かに彼女は疲れていた。
俺達にこの話をすることで、心の傷を抉っているように、疲れていた。
「あの、三井さん」
沈黙の中、三井さんに声をかけたのは柳生だった。
「なんですか?」
「その“まさはるくん”というのは…」
苦笑を彼女が浮かべる。
「気になるよね。“仁王 雅治”」
「え?」
突然紡がれた仁王の名前に驚き声を上げてしまった。
「もしかしたら、漢字も一緒だったりするかも。雅(みやび)に政治の治(じ)で“雅治”」
「一緒じゃ。漢字も」
三井さんの前では沈黙を保っていた仁王が口を開いた。
彼女はそれにどこか泣きそうな表情をする。
「先を話した方が早いかもしれないけれど、結果だけ。結婚を前提にっていう“雅治くん”の言葉は本当だった」
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中学1年の冬だ。
目の前には“雅治くん”と母。
私と2人を隔てるテーブルの上には婚姻届。
はじめて目にしたそれは、薄っぺらくて重みを一切感じなかった。
『さくらちゃん、私達ね、籍を入れようと思うの』
薄っぺらいその紙に圧迫された気がした。
ズキズキと胸が痛かった。
同時に、苦しかった。
『おめ、でとう』
そう言うのが、精一杯だった。
苦しくて、痛くて、泣きたくて、でも、喜ばなくちゃいけないんだと解っていたから、笑ったんだ。
『ありがとう』
幸せそうに微笑む母が心の奥で憎く感じた。
どうして?と、
心が問う。
私ではないの?と。
知らぬ街に降る雪は
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