18話
ハルと呼ばれた犬は、なんというか、氷帝の某2年を思い出した。
三井に忠実なんだろう。
この和室に入り、三井に抱き上げられてからというもの、一切吠えはしないし、暴れもせず、時折俺達の様子を見ているのかぐるりと見渡す以外、大人しいものだった。
「三井先輩、そいつ触ってもいいッスか?」
「あ、どうぞ」
赤也が好奇心からか、触ろうとしても、吠えたりすることもなく、赤也に触られることをすんなりと許している。
「丸井君」
「なんだよぃ」
「ごめんね…、その……頬、大丈夫?」
言いづらそうな声音で三井が言うが、丸井は大丈夫だと、三井に笑いかけた。
中学の頃から、弦一郎の裏拳を受けてきたんだ。
恐らく、それに比べれば、痛みなどないに等しい。
「でも」
「大丈夫だっつうの。真田の制裁のが痛ぇーし」
「制裁…?」
「うちは何かある度に罰則として平手打ちなんだ。丸井は中学の時よく受けてたもんね」
「ゆ、幸村くん」
怯えた丸井に、ふふっと笑ったのは勿論幸村だ。
誰もが話の核心に触れるのを躊躇っていた。
当人である三井も、聞きたいからここまで来た俺達も。
傷付けるとわかっていたのに
何故
俺達は引き返さなかったのか
知らぬ街に降る雪は
Side:Renji