医者志望の泣き虫 

私は青雉大将と違い、真面目に、そう極々真面目に職務に取り組んでいるから、きちんと休暇を取れるし、休暇を消費しないと赤犬大将のように総務の人間に泣かれる。
赤犬大将へ泣きつくなど出来ないから、養い子として認識されている私に総務の人間が泣きついてくるから、よくよく知っている。
休暇はきちんと取る、これはある意味で義務だ。
休暇の使い方はだいたい決まっている。
一日ならば現在保護者代理である赤犬宅にて過ごすか、買い物へ。
纏めてならば、偉大なる航路[グランドライン]を出て、様々な所へ。


「というわけで、北の海[ノースブルー]到着」


何の目的があるわけでもないが、私なりの世界の把握方法。
西へ東へ何処へでも、と言いつつ、今回は北な訳なのだけれども。
北の海出身者って言えば、私の中では超新星の二人が出てくる。
死の外科医、トラファルガー・ローに、魔術師、バジル・ホーキンス。
まぁ二人ともまだ超新星と呼ばれるどころか、海賊になってさえいないのだろうが。


「到着早々に意識不明者発見とか、私もなかなかの非日常吸引体質ってことかな」


独り言を言いつつも、手だけは意識不明者の処置に取り掛かる。
ははん、医者歴何年だって思ってんだよ。
この世界にない治療法まで知ってるし、なんかもうチート万歳!
そんじょそこらの医者にゃ負けないんだから。


「意識復活?おはよう」

「っ!!」


起きていきなり動くのは危険だよー?
と口には出さずに思いつつ、少年を見つめる。
少年って言ったって、私とそこまで変わんない年だろう。


「おまえ、だれだ?」

「私?ニカ。ドクターだよ」


あの日から、たった一人が私を医者と認めたあの日から、私の肩書きはドクターだから。
リトルドクター。
小さな医者と呼ばれたあの日から、それが私の誇りで本質。
だから、私は私が騙る場合以外、医者と名乗る。


「ドクター?」

「そう、ドクター」

「おまえが?」

「私が」


何度も自分と私を見比べている少年の心の内を代弁するならば、そんな馬鹿な。で合ってると思う。
なんて観察してると、少年が泣きはじめた。
まさかの展開だよ、まったく。


「何?どうしたの?」

「おま、…い、…ゃなん………ろ?」


泣き過ぎて何言ってるかわかんないよ、少年。
私、エスパーじゃないから、本気で理解出来ないってば。


「もう、泣かないの。男でしょ?」


男女差別と言うなかれ。
この大航海時代、海に出れば、涙は女の武器なんて通用しないし、男は大事なこと以外で泣くなんてあっちゃいけない。
そんなことに貴重な水分使ってんなよ、バカヤロー。


「君、名前は?」

「ロー」


ジャストミぃぃぃぃト!!!
どっかのテレビ局のアナウンサーが脳内に来て帰っていった。
忙しいな、まったく。
ローって、ローだよね。
トラファルガーさんだよね?
やっちまったか、私。


「ローは何で泣くの?」

「おれもいしゃになるのに、おれとかわんないのに、おまえはいしゃだから」


成る程成る程。
悔しかったわけだ。
にしても、まだ泣いてるとか涙腺弱いよ、ロー。





医者志望の泣き虫
彼に懐かれて休暇を潰した
write by 99/2011/10/07



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