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「千闇!千闇!」


何度名前を呼んだって千闇はちっとも反応しない。
伏せた目がまるで死んでるみたいだった。


「千闇っ」


抱きしめた千闇の身体は軽くて、嫌な記憶が甦る。
あの日、僕の、僕達の目の前で匂宮千闇が死んだ日の記憶。
ばらばらで、バラバラで、散散で。
身体の形すらも原形を留めず、人類最強よりも真っ赤に染まった千闇だった欠片は、かき集めることも出来なくて、何一つ僕の手に遺らなかった。
綺麗だった光彩の加減で濃紺に見える髪は無惨で、無残だった。


「出夢くん、行くよ。絵本さん呼んで、千闇さん診せないと」

「あ、あぁうん」


そっと抱き上げた身体は壊れてしまうんじゃないかと思う程軽かった。
誰も廊下を走る僕達を気にしない。
こんな時ばっかりは、忌ま忌ましい時宮に感謝する。


「意識とんでるだけだよな?」

「多分ね。言っても、学生が手に入れれるんだから、そこまでの毒薬じゃないよ。あ、絵本さん?すぐに千闇さん連れていくのでお願いします」


匂宮千闇ならまだしも、この千闇は一般人だってのに。
こんなに細っこい身体は何もかも受け止めてたんだよな。
校門に出ると急ブレーキを立てて、真っ赤なコブラが僕達の目の前に停まった。


「乗りな」


人類最強の車に乗り込み、目指すのはドクターのいる西東診療所。
千闇はぐったりしたままで、千闇を抱きしめる僕の腕は震えてた。
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