20
並盛高校のとあるクラス。
その日、このクラスの授業は悉く自習となり、生徒達は暇を持て余していた。
そんな中、一人の少女が千闇へと近付いた。
「虚戯さん」
「はい」
机の前に立った少女を見上げ、千闇は陰鬱とした気持ちを抱きながらも、返事をする。
それに対し、少女はニンマリと笑うと、一粒の錠剤を千闇に差し出した。
「あの」
「飲んで」
「え?」
意味もわからず、いや、意味はわかっていたのだろう、千闇が聞き返すが、少女はそれが気に入らなかったのか、千闇の顔を掴んだ。
「飲めって言ってんの」
声を荒げ、掴んだ千闇の顔を強引に引き寄せて、口にその錠剤を押し込む。
千闇はそれを飲むまいと、口を閉じたけれど、見守っていたクラスメイト達が次々に千闇を押さえ込みはじめ、思わず口を開いてしまった。
その隙に、錠剤は咥内に放り込まれる。
それを吐き出そうとする千闇と飲み込ませようとするクラスメイトとの攻防は呆気なく終わりを迎えた。
「何やってんだ!」
その声に驚いて千闇は錠剤を飲み込み、クラスメイト達は千闇から手を離した。
飲み込まないようにしていた間に溶けた所為か、即効性だった様子の薬の効きは早く、千闇は意識が落ちていくのを感じた。
「千闇っ」
千闇の名を呼ぶ声に反応することなくその目は伏せられる。
視覚情報の途切れた千闇はただただ懐かしい感覚に身を委ねた。