18
白昼夢のようだった。
まるで自分がおかしくなってしまったような、そんな感じ。
でも、私はそれが何かを知っていた。
紫闇。
もう一人の私。
私がまだ匂宮千闇だった頃、兄弟の居ない私が仕事をする為に演技で作り出したもう一人に酷似する彼は、私を守る存在だった。
私が紫闇を認識したのは母親が新しい父親だという再婚相手を連れてきた頃で、それからずっと私達は共有している。
時間も身体も。


「紫闇はどうして表に?」


答えてくれる人間は居ない。
当たり前のことだ。
紫闇が表に出た上に、私への遮断をしてしまっていたということは、私にとって良くないことが起きたんだろう。
無闇矢鱈に彼は表に出ないし、出た時はきちんと事後であろうと報告してくれる。
だからこそ、私は彼を信用しているのだけれど。


「何だか疲れた」


疲労が濃い。
最近は動きっ放しであまり休息が出来ていないから。
出夢や理澄に会えて、バランスを崩しているのかもしれない。


「そろそろ考えなくちゃなぁ…」


いつまでも裏世界に執着しているわけにはいかない。
あると確信を持ったからこそ、一般人である虚戯千闇が関わることは許されたものではない。
一般人の領域は表だ。
一般人であっても裏世界に首を突っ込み許されるのはいっくんのようなギリギリのラインのほんの一握りだけ。
私は、そのほんの一握りに入れはしないだろう。
そう、だから、そろそろ諦めなくてはいけないんだ。


「やっと会えたのにサヨナラは辛いよね」


こんなことなら会えなかった方がマシだったなんて思う自分勝手さが嫌になる。
会えてしまったからこその辛さ。
それでも、会いたくなかったなんて思えないから、会えて良かったんだ。
たとえ、ずっと一緒に居ることが叶わなくても、会えたことに哀しみが付き纏っても。
いつかの別れには、笑顔でサヨナラを言えるようにしなくちゃいけない。
大丈夫、大丈夫。
虚戯千闇は一人で生きていけら。
違うね、紫闇と二人で生きていくんだ。
それが独りだったとしても。
出夢には理澄が、理澄には出夢が居るから、私が居なくたって大丈夫。
スウッと深呼吸を一つして、玄関を開いた。


「ただいま」

「おかえり」


紫闇、サヨナラへのカウントダウンを開始しよう。


『そうだな、千闇が言うならそうしようぜ』



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