17
俺は何をしてるんだろうか。
傍から見たら千闇ちゃんのストーカーだぜ、まったく。
そうは思うが、俺は毎日のように千闇ちゃんを追っていた。
理澄が持ってきた資料に載っていた千闇ちゃんの17年は普通じゃなかった。
まだ匂宮の方がマシだって思える位に。
だから、怖かったのかもしれない。
今まで死ななかったことが奇跡のような、そんな17年だったから、目を離したら最後、千闇ちゃんを失ってしまうような気がして、怖かった。
殺そうとしていた奴が言うなよって話だけどな。
それでも、本気で怖かった。


「で、ストーカー化してりゃ世話ねぇよ」


ぐだぐだ悩むのは性に合わねーって訳じゃない。
考えんのは嫌いじゃないし、別に。
ただ、千闇ちゃんのことになった瞬間から、俺の思考回路はぶっちぶちに分断されて、意味を成さなくなる。


「やべっ」


見失った。
そう思って角を飛び出せば、そこに千闇ちゃんが居た。
俺を視界に入れた瞬間、千闇ちゃんの表情が変わる。
驚いて、それから、恐怖に歪んだ。


「あ………やっ……」


小さな拒絶の言葉を紡いだ瞬間に、また千闇ちゃんの表情が変わる。
今度は、俺を見下すような蔑むような、そんな、俺が知る千闇ちゃんがしない表情だった。


「はっ」


低い嘲笑うような声が聞こえた。


「馬鹿か。いや馬鹿なんだろうな。馬鹿じゃなかったら千闇の前に姿現したりしねーよな。つうか、零崎って揃って迂闊過ぎねぇ?零崎軋識も千闇に見つかりやがるしよぉ…って、あれ?あれは零崎軋識じゃなくて式岸軋騎だからセーフか。まぁ千闇は気付いてねーからセーフだよな。やっぱお前が馬鹿なだけか、零崎人識」


なんだ、なんなんだ、これは。
俺は知らない。
千闇ちゃんはこんな低い声で喋らないし、こんな話し方はしない。
目の前の千闇ちゃんの姿をした何かがニタリと笑う。


「あぁ自己紹介してねーな。はじめまして、オレは紫闇。見ての通り、虚戯千闇の第二人格だ」


第二人格だ?
千闇ちゃんの?


「おいおい。まさか千闇が正気だとでも思ってたのかよ。馬っ鹿じゃねーの?あぁ悪かった。馬鹿だったな。千闇がオレを作り出したのは何時だったかなぁーえーっと?あーまぁ母親って奴が死ぬ前だってのは確かだな。千闇は弱いんだよ。いや強いんだけどな。オレを作らなきゃ生きてけない位には弱かったんだよ。それをどう解釈するかはあんたら次第だけどな」


千闇ちゃんの第二人格だという紫闇は饒舌だった。
どっちかってーと、黙して語らずに近い千闇ちゃんと正反対だった。


「つまりだな。千闇風に言やぁ"ボク"が千闇で、オレがオレだ。はっ訳わかんねー。あぁ大事なこと忘れてた。千闇を傷付ける奴はオレが赦さない」


ニタニタと笑う紫闇の目は笑ってなんかなかった。
傑作な戯言だぜ。
何も言えない俺に構わず、紫闇はここぞとばかりに話し続ける。


「千闇はな、探してた。この世界で裏世界を。だが、裏世界に属している奴ならまだしも、千闇はただの餓鬼だった。見つかるわけねーよなぁ。でもよ、千闇は信じ続けた。この世界にも裏世界があるってな。千闇は弱い。それこそ、裏世界がなきゃ千闇は生きていくことさえ放棄した。良かったよ。あのタイミングで人類最強が千闇を見つけてくれてよ。オレはよ、千闇の第二人格だからっていうより、ホントに何て言うんだろうな、切り離された別の存在な訳だ。千闇が知ってることをオレは知ってるけどな、オレが知ってることを必ずしも千闇が知ってるわけじゃない。なんて言うとよ、副人格のオレがまるで主人格みてーなんだが、オレは間違いなく副人格な訳だ。んー、ま、今、オレとお前がこうやって話してることを千闇は知る由もないってことだな、うん」

「何が言いてーんだよ」

「だからよ、まだ千闇に悟られるなよってこった。お前達が千闇のことを見守ろうがそれはお前達の勝手だけどな。千闇に知られるにはタイミングが悪すぎる。オレはさ、これでもお前達に期待してんだよってことで、だ。千闇をこれ以上押し込めんのは可哀相だから、お前どっか行け。いいな」


押し切られて、俺はとにかく千闇ちゃんから離れた。
千闇ちゃんと紫闇。
その存在に、俺は確かに接触した。
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