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少し浮足立っていたことは否めないだろう。
気掛かりだった人間に会えたのだから、仕方ない。
それでも、もっと警戒するべきだった。
塀に乗り私を見下ろす二足歩行に黒スーツの赤ん坊。
それは異様で異常だった。


「虚戯千闇、お前は何者なんだ」

「別に構わないけど、随分と不躾なんだね」

「はぐらかすな」


チリチリと感じる殺気は弱々しい。
裏世界を知っているから弱々しいなんて言えるのだとすれば、こんな殺気を出すこの赤ん坊は普通ではい。
なんて、当たり前か。
普通の赤ん坊はこの歳でスーツを着たり二足歩行したりはしない。


「虚戯千闇は虚戯千闇でしかないよ。それ以上にもそれ以下にも成り得ない」

「言葉遊びをしてるんじゃねーぞ」

「言葉遊びなんてしてないよ。戯言でもない事実を述べたまで。そうだね、言葉遊びっていうのは、"私"は"虚戯千闇"で"虚戯千闇"は"ボク"だってこと」


器用に眉を寄せた赤ん坊に少し気分が浮上する。
あぁこれ以上は危険だ。


「余計解らなくなったでしょ?いひひっ」


これ以上、弱々しいとは言え殺気を感じ続けようものなら、私は"ボク"になってしまう。
匂宮千闇は暴れたくてウズウズしてるのに。
それを必死で抑え込んで我慢してるのに。
虚戯千闇として、はじめて人を殺してから、私の中で匂宮千闇が笑っていることなど、自分自身のことだからよくよく理解している。


「ねぇ赤ん坊」


私…いや、"ボク"は赤ん坊を見上げて、いひひっと笑った。


「あんまり裏に首を突っ込まない方が賢明だよ?じゃないと…」


風が吹く。
長く伸ばした髪が靡いた。


「     ?」


赤ん坊は聞き取れたようだった。
いや、聞き取れてはいない。
唇の動きを読んだんだろう。
蒼白になった赤ん坊を置いて、私は帰路に着いた。


「あれ?」


公園に人影を感じて見遣れば、いつも私を殴りにくる同級生のグループがグループ内で喧嘩をしていた。
喧嘩というのは、おかしい。
あれは、そう。


「殺し合い。あぁそうか、いひひひっ」


微弱に感じ取れる気配が見知った彼のものだったから、思わず笑ってしまった。
笑った瞬間に背後に立った気配は感じ取ったものと同じだった。


「黙って見ててはくれないんだね?時刻くん」

「当たり前だろう。あんなもの、自業自得でしかない」

「時刻くん、ごめんね」


時刻くんには謝ってばかりだ。
嫌だと言った時刻くんに無理を言って、出夢と理澄に操想術をかけてもらった時も。
一番最初に零崎一賊の人間に狙われた時も。
もう辞めろと言われた時も。
時刻くんには沢山の我儘を言って謝って。


「千闇の謝罪は聞かない。早く帰れ。双子がお前を待っているんだろ」

「ありがとね」


小突かれて、歩き出す。
目隠しに隠れた目は見えないけど、幼かったあの頃のように時刻くんの目は優しいままなんだろう。
歩き始めた足取りは軽かった。
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