09
今日も目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
いつもより身体は軽いし、目覚めはいい。
それもこれも、出夢達に会えたからだ。
携帯を見れば、前よりも明らかに増えたメモリーに少しだけ頬が緩んだ。


「今日も頑張れる」


携帯のディスプレイを指でなぞって、そう言った。
もう一人じゃないから、頑張ることに意味が出来た。
私は出夢達に会う為に今日を生きるんだ。
匂宮から虚戯になったって、私の根本に居るのは出夢と理澄で、千闇の生きる意味はあの二人であることに変わりはない。


「いってきます」


誰も居ない部屋にそう言って家を出た。
通学時間のラッシュより1時間は早いから、私は誰に会うこともなく、教室まで行くことが出来た。
昨日サボった所為か、机は見るも無惨な状態だった。
持参した除光液を机にぶちまけ、鞄の中にあったポケットティッシュで拭き取る。
自分でどうにかしないと、誰もしちゃくれない。
教師だって見ないフリなんだから仕方ない。
まぁ怖いのだろう。
私の通う学校は教師よりも生徒の立場が強い。
生徒というと語弊があるかもしれない。
一部生徒と言った方が正確だ。
生徒会、風紀委員会、その二つが並盛高校の実権を握っているのだ。


「千闇ちゃん?」


聞こえた声に机を拭いていた手が止まる。
自称親友だった沢田 愛[サワダ マナ]がそこに居た。


「何か用?沢田さん」

「やだぁ親友なんだから、愛って呼んでよ、千闇ちゃん」

「親友はこんなことを仕掛けたりしないよ」


親友がどういう定義なのかなんて私にはわからないけれど。
万物親愛と呼ばれた私に親友は居なかった。
心が繋がり合った心友や本当の友達だと言ってくれた真友、信じ合っていた信友は居たけれど。
心友と真友は最期まで傍に居てくれたけれど、信友は結局私の独りよがりでしかなかった。


「ふふっいい気味。ねぇ千闇ちゃん、辛い?苦しい?死んじゃいたい?」


辛い?
出夢と理澄が泣いていたあの時の方が辛かった。
苦しい?
あの人と同じ目をした彼に奮われた力の方が苦しかった。
死んじゃいたい?
出夢にも理澄にも、時刻くんにもいっくんにも友ちゃんにも潤さんにも狐さんにも園樹ちゃんにも会えたのに、死にたいなんて思う筈がない。


「全然」


そう答えた瞬間、沢田さんの顔が紅潮して、くりくりした目が吊り上がる。
化粧なんかしない方が可愛いだろうに、なんで化粧なんかしてるんだろう。


「そんな強がりすぐに言えなくしてやるんだから」


あれ?その台詞、聞き覚えがある。
だって、あの子にも言われたから。


『何が万物親愛よ!私の方が可愛いし、皆みんな、私を愛してくれるに決まってる!だって私は人類最愛なんだもの!万物親愛だからみんなを嫌いにならない?そんな強がりすぐに言えなくしてやるんだから』


あの子の声が、なんで沢田さんと被るんだろう。
沢田さんの対象は私で、あの子みたいに出夢や理澄じゃないのに。
呆然としている間に、沢田さんの従弟やそのお友達に囲まれていて、転がされたと思ったら、髪を引っ張られて裏庭に連れていかれた。
今日も授業は受けられない。
入れ替わり立ち替わり、殴られては蹴られ、蹴られては殴られての繰り返し。
終わったのは、薄暗くなる少し前、夕焼けで西側に面した裏庭が朱く朱く染まる頃。
辛うじて引っつかんだお陰で教室に取り残されずに済んだ鞄は少し離れた所に置いてあった。
踏まれて汚れてたけど、中身を出される訳でもなく無事なのは不幸中の幸い。
だって、あの中には携帯が入っているから。


「良かった。壊れてない」


踏まれたから覚悟はしてたけど、機種に傷は増えただけで、機能に壊れた様子はない。
それを確認出来ると、やっぱり嬉しくて頬が緩んだ。
今日はよく笑える。
なんか幸せなのかなぁ。






◎◎◎
沢田 愛(さわだ まな)
千闇のクラスメイトで自称親友
全ての元凶
同学年に沢田綱吉という従弟がいる
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