08
病室から人類最強が出て来たかと思えば、人識と二人、首を掴まれ別の病室に押し込まれた。
理由を問えば、あの少女を一度家に帰すらしい。
まだ俺達は会わない方がいいという判断なのだろう、誰が決めたかは知らないが。
当然だと思う。
特に俺は会うべきではない。
本当なら会うことなどあってはならない。
自分を殺した人間にどうやったら会いたい等と思える?
匂宮妹が病室に戻る前に俺達に渡してきた調査結果…とはいえ、すぐに調べられる程度の簡単なものだったが、を見たならば、尚更にそう思う。


「なぁ大将」

「なんだ?」

「千闇ちゃんは千闇ちゃんなんだよな?」


あの高校生くらいだろう少女が、匂宮千闇か、どうか。
病室を出る前のあの反応を見るに、匂宮千闇なのだろう。
処置室から病室に移される時に見えた死んだように眠る姿が、あの日、愚神礼賛を振り下ろした時の姿にダブって見えた。
その瞬間から、あの少女が匂宮千闇だと、俺は確信していた。


「ぐっちゃん帰るよ」


暴君に呼ばれ、座っていたパイプ椅子から車を出す為に立ち上がる。
病室を出る直前、俺が座っていたようにパイプ椅子に座ったまま、顔を俯かせた人識を振り返る。
顔を俯かせているから、特徴的な刺青は見えない。


「アイツは匂宮だろうが虚戯だろうが、千闇だ」


それだけを言って、病室を出た。
廊下では戯言遣いと暴君が匂宮兄妹と話していた。
それを見て、虚戯千闇の経歴を暴君はもう見たのだろうかと思う。
匂宮妹が調べてきた虚戯千闇の経歴は一般人としてはかなり酷いものだった。
親の離婚に再婚はまだよくあることと言えても、親の再婚相手による性的虐待、実母と義父の無理心中、実父による暴行、校内虐めが性的暴行にまで至るなど、普通の人間なら自殺していてもおかしくはないだろう。
虚戯千闇が匂宮千闇であったが故に今はまだ生きていると言ったっていい。
それに、無理心中の話は一時報道番組を独占していたから、よく覚えている。
裏世界でなくても、世の中には酷い生活を強いられる子供がいるんだと他人事に思っていた。
その少女が虚戯千闇だとあの時点で知っていれば、そのあとに彼女が受けた実父からの暴行も同級生からの虐めも受けることなく過ごせたのではないかと、今更ながらに思いはする。
それを思っているのが、匂宮千闇を殺した当人である俺だなんて、人識ではないが酷く傑作だ。


「うにうに。とにかく、僕様ちゃんは親の方をどうにかするんだね」

「じゃあ、あたし達は学校の方なんだね」

「頼んだ、青色」

「僕様ちゃんに任せてよ。ちやちゃんの為なら何だってするよ。ね?ぐっちゃん」

「えぇ暴君」


急に話をふられようが、構わない。
暴君に肯定以外は必要ないのだから。
それに、これが匂宮千闇、虚戯千闇に対する贖罪になるのならば、俺がやらない道理はない。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -