06
千闇が目を覚ましたことに気付いた全員が、静かにただただ見守っていた。
いや、声をかけられなかった。
閉じていた瞼の下から顕れた深い藍色に魅入っていた。
その色は匂宮千闇の色だったから。


「知らない場所?」


僅か掠れた声が呟く。
藍色は天井に固定されたまま、千闇は無表情を崩さない。


「おねーさん」


呼んだのは出夢だった。
敢えて、千闇の名前を呼ぶ事を避けたその声音は緊張を表わしていた。
呼ばれた声に反応し、千闇の視線が少し彷徨い、出夢達の方を向いた。


「い、…ずむ…………?」


途切れて掠れていたが、千闇の口が紡いだのは、確かに出夢の名前だった。
それは名前のわからなかった少女が匂宮千闇だと確証付けるものだった。


「っ千闇…!千闇っ千闇」


千闇の名を呼び、出夢は千闇のベッドに飛び乗った。
勢い良く飛び付かれ馬乗りで抱き着かれても、千闇は文句も言わず、他の誰も見えていないように出夢の髪を撫で付け、天井に向かって微笑む。


「出夢、泣かないで?出夢に泣かれると哀しいよ」


ふわりふわりと硝子細工に触れる様に千闇は出夢の髪を撫でる。
出夢は涙を乱暴に拭って顔を上げる。
彼の目に映ったのは、自分や妹をどろどろに甘やかしながらも、しっかりと躾けてくれていた頃と同じくらいの愛しい愛しい姉貴分だった。


「やっと会えた」

「千闇、僕」

「出夢ってば、ちゃんと男の子だね?もう私より身長があるんじゃないかな?」

「千闇がちっせーの。腕なんかガリガリだろ?」

「発育不良は仕方ないよ。環境は宜しくないし、正直匂宮に居た方が大事にされてたんじゃない?」


あっさりと言い放つにしては重い台詞に出夢は固まった。
それでも尚、千闇の顔は嬉しそうに笑っている。
寝ていた時と起きた時の無表情が嘘のようだ。


「出夢は何歳かな?」

「僕?僕も理澄も次の誕生日で22」

「あら、私より5つも上ね」

「千闇、17?の割に落ち着き過ぎ」

「だって、精神年齢はもう40過ぎよ?落ち着きもするわ」


ふふっと柔らかく笑う千闇に出夢も段々と笑顔になる。
その様子を見ていた軋識と人識は目を合わせ、静かに病室から退室した。
それを見ていながらも、出夢は気付かないフリをした。


「ちやたん」


二人の退室を確認してから、潤は千闇に声をかけた。
少し不思議そうに千闇の視線が出夢から外され、潤達を視界に入れると驚きに目を見開いた。


「みんな?うそっ本当に?やだ、都合の良い夢を見てるみたい」


まだ痛いだろう身体を起こす。
その視線は誰かに固定されるわけではなく、一人一人を見渡してはまた一番最初に戻るということを繰り返した。
その手は出夢と繋いだまま、離しはしない。
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