05
会いたくて会いたくなかった人間が見つかった。
俺はあの人を捜しながらも、何処かで見つからないと思ってたってことだ。
出夢に首根っこを引っつかまれて、狐の車に問答無用で放り込まれた俺は匂宮千闇だと思われる女の目覚めを待っていた。
匂宮千闇は出夢と理澄にとって絶対的唯一だった殺し屋匂宮の最高傑作と謳われた殺戮人形。
俺が千闇ちゃんと会ったのは出夢が俺の通ってた学校で殺戮を行ったすぐ後だった。
色合いこそ違え、千闇ちゃんは出夢に似ていた。
いや、正確に言うならば、出夢が千闇ちゃんに似ていた。
最初こそ殺戮人形なんて呼んでたけど、千闇ちゃんに慣れてきた頃には千闇ちゃんって名前で呼んでた。
殺し屋として仕事をしてる時の千闇ちゃんは殺戮人形に相応しい姿だったけど、普段の千闇ちゃんはそのすぐ後についた万物親愛そのものだった。
人を愛して愛される存在で、正しく万物に親愛し親愛されていた。
それが崩れたのは、俺の鏡と狐の戦争が終わって暫くした頃だった。


『人類最愛の零崎愛織です』


零崎だから、家賊だなんて俺は認めてなかったし、兄貴以外俺にとっての家賊はいなかった。
俺と同じように兄貴を慕う舞織ちゃんでさえ、俺は心の何処かで家賊だなんて認めてなかった。
それなのに、訳もわからず、俺は愛織は家賊だと思った。
それこそ、俺達零崎が理由もなく人を殺すように、理由もなく愛織を信じたんだ。
それが間違いだなんて気付かずに。
今思えば、零崎があれくらいのことで悲鳴を上げる訳がないのだけれど、愛織の悲鳴に俺達は駆け付けた。
そこに居たのは愛織と出夢と理澄、そして千闇ちゃん。
愛織は腕から血を流して、出夢と理澄はまるで曲弦糸の張られた所を注意して通った時のようにズタズタで、たった一人、千闇ちゃんだけが無傷で血の付いたナイフを持って立っていた。
そこから愛織ちゃんを傷付けたことによる零崎の報復が始まった。
出夢と理澄は被害者だったから、同じ匂宮でも除外されたし、折角仲直り出来た悪友をみすみす死なす気もなかった。
だから、千闇ちゃんを何の手加減も躊躇いもなく、傷付けた。
致命傷には至らない傷を沢山作って、切っては裂いて、裂いては切って。
今なら、酷いことをしたもんだと冷静になれるが、あの時の俺にはそんな感覚がなかった。
だから、あの日、俺の鏡を師匠と呼ぶ病蜘蛛[ジグザグ]で危険信号[シグナルイエロー]が曲弦糸で動きを封じた千闇ちゃんに向かってナイフを投げた。
大将が愚神礼賛を振り下ろすのも、殺すのかくらいにしか思わなかった。


『    、×××』


静かに目を閉じた千闇ちゃんが呟いた言葉を拾うことは出来なかった。
大将の愚神礼賛に千闇ちゃんが文字通り潰されてすぐに耳に痛い程の声で泣き喚く出夢の声が聞こえたから。


「かはは」


今更なんだ。
千闇ちゃんに謝るなんて。
真実を知った時、誰よりも衰弱したのは他でもない大将だった。
その大将の表情は俺の位置からじゃ伺えない。


「……………ん…」


小さな呻きが聞こえて、病室にいた全員の視線が寝ていた彼女に集まった。




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