ぼくという一人称を使うと男の子だと認識されることが多い。
それはぼくが"ぼく"であるから、仕方がないのかもしれない。
世間一般でいう女の子にしては中性的過ぎるのだろうか、この顔は。
いや、"ぼく"が多少女顔だっただけの話である。
じゃなければ、女装が似合う男の子にはなれはしない。
だって、あれは二次元とはいえ違和感が皆無だった。


「なんて、戯言か」


20年近い付き合いであるこの口癖ももうこの身体に染み付いた。
間違いなく、ぼくは戯言遣いなのだろう。
××××なんて名前ではないけれど、ぼくには井伊絲祇なんて名前があるけれど、名乗るのはいつだって苗字もしくは渾名で定着させてきたから絲祇の名を知る者は今はもう居はしない。
まぁそれすらも戯言か。


「なぁ欠陥」

「なんだい?失格」


実を言えば、この場所は俗に言う殺人現場というやつなのである。
そう、ぼく達は筋書き通りにカラオケ店で落ち合った後、殺された江本智恵ちゃんの部屋に来ていた。
呼ばれたので振り返れば、鏡の向こう側である殺人鬼が思っていたよりも近くにいた。


「近い」

「近付いてっからな」


ニタニタと刺青を歪めて笑う殺人鬼とは"ぼく"と同じ5月13日の金曜日に邂逅した。
思考に浸ってる間に、零崎が更に顔を近付けてくるから、ぼくは後退るように避けた。
運悪く体重を支えてた腕の力がかくんと抜けて、偶然的にぼくは殺人鬼に押し倒されてしまった。
これだけなら、5月の邂逅を彷彿とさせるだけだ。
零崎がサングラスをしてなくてナイフをぼくの心臓に突き付けてなく、ぼくは彼に指を突き立てているわけではないことを除けば。
というよりも、ここが他人の部屋で殺人現場だということの方が問題か。


「名前教えろよ」


鏡はそんなとこまで似るのか、女顔と言っても零崎の精神的ダメージ以外に支障がないだろう顔が歪む。
あぁ勿体ない。
折角、顔はいいのに。


「俺は零崎人識だ」

「知ってるよ」


わかりやすい程に答えをはぐらかした。
言ったって支障はない。
いや、支障がない?
本当に?
ぼくには"ぼく"から受け継いだ無為式がある。
なるようにしかならない最悪がある。
それは、鏡だから零崎に影響を及ぼさないとは限らないじゃないか。
それに、零崎はぼくが女だと知らない。
ここに来る道すがら、巫女子ちゃんがぼくに惚れている云々の話をしたのだから、それは間違いないと、思う。
零崎とは髪の長さはそんなに変わらないし、成人近い男にしては小柄だろうが身長だって一般的だし、身体のラインが解りにくい服ばかりを着るから、パッと見でぼくを女だと見抜く人間などいない。
ぼく自身が知っている限りでは書類等を除き、友だけだろうか、ぼくの性別を間違いなく把握しているのは。
寧ろ友が積極的に隠蔽しているようだし。


「逃がさねーよ。俺は名前を呼びたい」


ぼくの壊滅的な記憶力では間違いがないとは断言出来ないけれど、零崎には無為式の話はきちんと話した筈だ。
それでも、零崎はぼくの名前を望むのか?
何故なんて、ぼくには理解なんて出来はしない。
ぼくは、ぼく達は鏡の筈なのに、理解出来ない。


「欠陥」


苦しそうにぼくを呼ばないでよ。
ぼくは零崎が死んで欲しいなんて思わないから、言いたくないんだ。
ぼくの名前がどれだけの効果を持っているのか知っているから。
こんなことで道筋を違えようと思っていないのだから。


「呼ばせろよ。死なねーから」


反則だ。
戯言だろ。


「井伊絲祇」


そんな顔をするなよ。
殺人鬼なのに、そんな普通で嬉しそうな顔を。


「絲祇ちゃん?」

「なんだよ。…って、ちゃん?」

「絲祇ちゃんだろ?あってんよ」

「零崎、気付いてたのか?」

「かははっ一目じゃわかんなかったけどな。でもよ、こんな体制になったら気付くぜ?つーか零崎じゃなくて人識な、絲祇ちゃん」


馬鹿だろ。
道すがらの話も態とかよ。
戯言だ。


「人識くん」


こうやって名前を呼ぶことが嬉しいと思うなんて。


「なんだよ、絲祇ちゃん」


そうやって名前を呼ばれることが嬉しいと思うなんて。
ぜんぶ、ぜんぶ、戯言だ。





侵略する裏表
(「いい加減どけ」「もうちょっと、な」)
write by 99/2011/10/13







締め括れなくて二週間ほど放置してたのですが、やっと完成。
殺人現場でこのいちゃつきよう。
不謹慎にも程がありますが、この二人ならいっかなぁと。
クビシメ読んでると書きたくて仕方なかったので。
そう、クビシメ買ったんですよ!
ついでにクビツリも。
早く女装いーちゃん読みたいので頑張る。
とはいえ、読む時間がない。
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