私は玖渚友であり、玖渚友ではない。
その位置を、立場を持ってはいるし、劣性遺伝子だったし結局サヴァンになってしまったけれど、玖渚友程に頭がいいわけでもない。
勿論、サヴァンだから世間一般、いや、玖渚倫に生まれる前の私と比べるまでもなく頭はいいのだけれども。
なんだかんだとお遊びを続けていたら、玖渚友曰く仲間[チーム]が出来ていたのだけれど、それでも私は玖渚友ではないのだ。
その遊びの内容がテロ活動だとしても、私は至って普通に遊び仲間の延長線上だと思っているし、絶対服従的な態度はとってない(筈なんだよ)
テロ活動もさ、某首なし妖精さんが出てくる小説みたいに、ネット上での冗談だけで終わるつもりだったものがいつの間にか具現化してたってだけだし。
うん、気付いた時はさ、どこかにナイフ常備のファーコート愛用者が居るんじゃないかってドキドキしたよ、居なかったけど。
面倒だったっていうのもあるけど、呼び名は玖渚友が呼んでいたまま呼んでいる。
あぁ私は普通にお風呂入りますよ。
お風呂入らないとか周りより私が堪えられない。
上下運動はやっぱムリだったので、マンションが完全バリアフリーなんだよ。
目下の悩みは玖渚友と違い、遅くはあるものの成長していっているこの身体。
幼児体型と言っては失礼だけど、少女と言っても差し障りのない容姿をしていた玖渚友ならば、抱えられようがそんなに気にすることのない、いや寧ろ彼女の場合、仲間がそうするのは当然と思っていそうだったのだけれど、私は成長しているし、18歳現在の私はまぁ普通に見て中学生くらいかと思う。
まぁ言ってみれば、大人に近い大きさ。
そんなのを上下運動が出来ないからと登り下りする機会なんて滅多にないけど、階段がある度に抱えられるのは、何と言うのだろうか、こう、とてつもなく申し訳ない気持ちになるわけだ。


「うにー」


机に張り付くように伏せる。
いや、玖渚友ならこんな仕種はしないのかもしれないけれど、私はする。
だって、私は友ではない倫だ。


「暴君?」


ぐっちゃん、それ辞めて欲しいのに。
私、暴君って呼ばれるようなことした覚えないよー。
なんて心の声は聞こえないんだろう。
ぐっちゃんこと《街》[バッドカインド]こと式岸軋騎に不思議そうな顔をされ、いや寧ろあれは心配だろうか、そんな顔で見下ろされていた。
どうでもいいことだけど、ぐっちゃんのフルネームっていつも噛みそうだなぁって思う。
あぁでも彼は、零崎名も持ってるんだっけか、ふむふむ。
まぁぐっちゃんが知られたくないなら、知らないフリを続けてあげるのが偽善者[いい人]ってもんだと思う。


「何かお悩みですか?」

「僕様ちゃんは今自己嫌悪中なんだよ。皆に迷惑ばっかりな存在だなんて、うにうに」

「はぁ?」


一人称は仕様ですよ、仕様。
ぐっちゃんの語尾が盛大に上がったのを聞かなかったことにしたかった。
いや、独り言に近かったわけでね、他意はないと言いたい。


「迷惑をかけられた覚えがないのですが。寧ろもっとかけていただきたい」

「うに?僕様ちゃん一番ぐっちゃんに迷惑かけてると思うんだけど」

「暴君、何を指して迷惑だと?」


ぐっちゃんの顔が面白いくらいに怪訝な顔をしてる。
ふむふむ、私が迷惑だと思っていることは、ぐっちゃん的には迷惑ではなかったということだろうか。
でもなぁ、私の迷惑の基準は世間一般とズレは生じてないと思うし、なに、あれ?ぐっちゃんがどうしようもないドM体質だとかいうオチではないよね?
何と言うか、絶対にそれだけはない!と、断言出来ない所が怖いのだけど。
だって、ぐっちゃんって玖渚友に対して、本気で何されても嬉しいです!的な人だった記憶が。


「僕様ちゃんは上下運動が出来ない。これはもうそれなり付き合いで仕方がないものだと思ってるし、僕様ちゃんにとってある意味での僕様ちゃんという人間のステでさえあると思うから、それはまぁいいんだけどね。でも、それがあることで僕様ちゃんは一人じゃ出歩くことさえ出来ない。これは他人にとっては迷惑以外にないと僕様ちゃんは思うんだけど、ぐっちゃんはそう思わないのかな?」


私が玖渚倫という人間である以上、上下運動が出来ないのは仕方がない。
その所為で私は一人では出掛けることさえ出来ない。
しかも、し・か・も!
さっちゃんこと《害悪細菌》[グリーングリーングリーン]兎吊木垓輔ときたら、直しても直しても、エレベーター破壊しちゃうから、私はマンションの外に出るにも一人じゃムリなわわけだ。
さっちゃんがエレベーターの破壊活動さえ辞めてくれれば、散歩くらいには出れる。
そう、散歩くらいなら…と思いたい。
実際、一人で歩き回ることを許されてるのはマンション内というか、この階のみなんだけど。


「暴君がそう思われていても、私達はそれが迷惑だなんて思えません。むしろ、暴君にならどんな迷惑だろうとかけていただきたい」


ぐっちゃん、それは零崎としてどうなの?
式岸軋騎は零崎要素より闇口要素しか感じないんだけど、それってどうなの?
偽善者[いい人]だから、聞かないけどね。
零崎軋識としての性格を考えなければ、式岸軋騎っていう人間は"暴君"に見限られたら、自殺しそうなタイプだよね。


「暴君?」

「いや、うん、何でもないよ。そっか、ぐっちゃんは優しいね。僕様ちゃん、嬉しいよ。ぐっちゃんみたいな仲間がいて」


いやいやいや、いい年した大人がさ、本気で照れてどうする!
物語が始まるまであと一年。
来年の春には鹿鳴館大学に入学する為にいーちゃんが帰ってくる。
玖渚友はいーちゃんの代用品だった仲間を簡単に捨てたけれど、私にとっての仲間はいーちゃんの代用品なんかじゃない。
なら、解散させる意味もないし、捨てる必要性もない。
私がどう足掻いても物語が進むなら、私は好きなようにやる。


「来年か」

「暴君?」

「何でもないよ」


そう何でもない。
零崎人識による連続殺人が起こる京都にもう一人の殺人鬼であるぐっちゃんが居たらどうなるのか。
歪みは生じるのか、それとも物語ってやつは何の誤差もなく進んでいくのか。
私の足掻きが歪めるのは私自身か物語か。





うた己自身
(「とりあえず、ぐっちゃん。さっきからギッコンバッタン凄い音立ててとエレベーター破壊に勤しんでるさっちゃんを止めてきてくれないかな?」)
write by 99/2011/12/03








エレベーター破壊はチーム内で黙認されてると思われます。
だって、エレベーターなかったら倫ちゃんは外に出れない=自分達チームに頼らざるを得ない!
皆、倫ちゃん大好き。
でも、倫ちゃんに伝わらない。
皆、いい人なんだよなぁ、迷惑かけても嫌な顔しないし。くらいに思ってる。
いやいやいや、もっと迷惑かけちゃって!な擦れ違い。
とりあえず、軋騎さんの台詞が「暴君?」ばっかりだった件。
あれだね、うん、軋騎さん、暴君呼ぶの大好きなんだよ(マテ)
あ、ナイフ常備のファーコート愛用者はうざやかなあの方ですよ。
うざやかという造語は見た時に衝撃が走ったなぁ、ピッタリで。
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