9 誰も知らぬ再会



手塚は対峙している少女に戸惑っていた。
初対面の人間に怯えられることなど、年齢を間違われることと並んで、手塚にとっては日常茶飯事だ。
相手が女子であるならば、尚更に。
しかし、今現在目の前に居る少女は、最初消え入りそうな程手塚に対し怯えていたのに、眼鏡を外した途端に変貌を遂げた。
確かに自分が敢えて出さなかった柄塚の名前を少女が出したことにも動揺していたが、それ以上に手塚は自分が知っている人物であったことに驚いていた。


「己緒か…?」

「色が違っても、分かってしまうかしら?」

「そのオーラを出したなら、知っている者であればすぐにわかるだろう」


己緒・リッツベルグ。
手塚にとって、師ともいえる青年のたった一人の妹だった。


「久しいな。いつ日本に戻って来たんだ?」


驚きの表情から、普段の無表情へと戻した手塚に、己緒はつまらなさげに視線を逸らす。


「ついこの間。みっちゃん」

「そんな風に俺を呼ぶのはお前くらいだぞ」

「知ってる。ねぇ、私、怒っているの」


その言葉に、手塚の眉間の皺が増えた。
それに気付いていながらも、己緒は逸らしたままの視線を空に彷徨わせる。
遠い場所でも見るかのように、その目は細められた。


「みっちゃん、知らないなんて言わせない」

「己緒」

「言い訳なんてさせない。逃げ道なんて与えない。それが、私のやり方なの」

「あぁ」


手塚も己緒から視線を外し、空にそれを投げかけた。


「教えて欲しいことがあるの」


空に向けていた視線を己緒は再び、手塚に据える。
手塚もそれに倣い、己緒に視線を戻した。


「知っているんでしょう?乾貞治の知らない、真実を」


その言葉に添えられた微笑みは、その場の空気の温度を下げるには十分だった。





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -