7 直接対決-神の子と詐欺師-



彼がそのメールの気付いたのは昼休みのことだった。
普段から携帯電話をポケットに入れたままにして見る事の少ない彼がその時間に気付いたのは早い方で、部活仲間に言わせると携帯電話に連絡するよりも自宅に直接連絡する方がいいらしい。


「どうかしましたか?」


眉間に皺を寄せ、携帯電話を睨むように見るダブルスパートナーに声をかけられ、メールを読んでいた彼こと仁王は顔を上げた。
その顔はまだ渋面を作ったままだった。


「頼みがあるんじゃが」

「はい、何でしょう?」

「真田に用があるから部活は休むと伝えてくれんか?」


サボリとも取れる仁王の発言に柳生は些か険しい顔付きになるが、サボリの時にはのらりくらりと交わす仁王がはっきりと用があると言った事で静かに頷いた。


「これから行かれるのですか?」

「おう」


それだけ柳生に告げると、仁王は柳生に背を向けて昼食の為に持ってきていた鞄を持ち、屋上を去った。
そのまま、仁王は校外へと足を進めた。
やけに慣れた足取りで歩き続けた仁王が漸く足を止めたのは、言わずと知れた金井総合病院の前だった。


「まさか、ボスと直接対決になるとはのぅ」


病院の建物を見上げ、仁王が呟く。
そして、再び足を動かし、病院の中へと入り中庭を通り過ぎようとした時だった。


「部活はどうしたんだい?」


いつもなら柔らかさを含んでいるその声を聞き、仁王はギクリと肩を揺らした。
ゆっくりと仁王が振り向いた先には清々しいまでの笑顔を貼り付けた幸村が本を片手に中庭のベンチに座っていた。


「幸村」

「そんな怖い顔しないでくれないか?」

「無理な話じゃろ」

「そうかな。で、今日はどうしたんだい?体調不良で来た訳ではないんだろう?」


フフッといつものように笑んだ幸村を見て、仁王は自分の制服のポケットに手を入れ携帯電話を握った。


「青学に最近転校してきた柄塚己緒と俺の知っとる己緒は同一人物か?幸村」


真っ直ぐとベンチに座っている幸村を見つめ、仁王ははっきりと口にする。
風に流されないよう、しっかりと逃げ道を塞ぐように。


「この間俺達にお前さんが行かせた通夜で俺が見た遺影は己緒の友達じゃった。それに、青学生の柄塚ゆめが死んで現れた柄塚己緒。まさか、無関係とは言わせん」

「己緒もツメが甘いな」

「その言葉は肯定と取るぜよ?」


手にしていた本を自分の横に置き、幸村は膝に肘を置き両手を組んだ。
その目は試合中の様に冷え冷えとした暗い光が射している。
仁王は少し怯むながらも、決して目を逸らす事はしなかった。


「俺は己緒の意思を尊重したいんだ。立海を出来る限り巻き込みたくないという彼女の意思を、ね」





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